問1
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
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目次 / 三角比と三角関数 / 数学I
—— 角の sin で面積が決まる——三角比を「測る道具」に ——
第3章で、三角形の辺と角を行き来できるようになりました。この章では三角比を「長さ・面積・体積を計算する道具」として使います。出発点は、三角形の面積が「2 辺とその間の角の sin」で決まるという 1 本の式です。そこから 3 辺だけで面積を出すヘロンの公式、内接円の半径、円に内接する四角形、測量、正四面体の体積へと広げていきます。角度は引き続き「度」で表します(弧度法は第5章から)。
第3章と同じく、三角形 の角の大きさを ,,、その向かいの辺の長さを ,, と書きます(角 の向かいが )。外接円の半径は です。この章では新たに、三角形の面積を 、内接円の半径を と書きます。
三角形の面積は「底辺 × 高さ ÷ 2」で求められます。ところが実際の三角形では、高さを直接測れないことがほとんどです。分かっているのが「2 辺とその間の角」なら、高さは三角比で作れます。
辺 を底辺と見て、頂点 から垂線を下ろします。 が鋭角なら、直角三角形の中で斜辺 の対辺が高さなので です。 が鈍角のときは垂線の足が辺 の外に出ますが、そのとき高さは で、第2章の公式 により、やはり です。
三角形 の面積を とすると
はさみを思い浮かべてください。2 枚の刃の長さは変わらないのに、開く角度によって刃の間にできる三角形の大きさが変わります。閉じかけ(角が小さい)でも開きすぎ(角が 近く)でも三角形はぺしゃんこで、ちょうど に開いたとき面積が最大になる。 は と で 、 で最大の ですから、面積公式はこの直感をそのまま数式にしたものです。
三角形の面積は「2 辺の積 × はさむ角の ÷ 2」で、 は鋭角でも鈍角でも正なので、角の種類による場合分けは要らないということです。
三角形 で、次の場合の面積 を求めなさい。
【解答】
(1) なので
(2) なので
この 2 つの三角形は、第3章の例題2で「どちらも 」と分かったものです。残りの辺が同じでも、面積は違います。三角形は 3 辺で決まる(第3章)のですから、辺が 1 つ同じというだけでは形は同じにならない——面積を計算すると、その違いが目に見えます。
公式1を使うには角が 1 つ必要です。3 辺しか分からないときは、第3章の余弦定理で を出し、相互関係 で に直してから公式1に入れます。 では なので、平方根の符号で迷うことはありません。
この「余弦定理 → → 面積」の流れを、文字のまま最後まで計算したものがヘロンの公式です。
三角形 で (周の長さの半分)とおくと
ヘロンの公式のありがたみは、角を一切測らなくてよいことです。土地の 3 辺を巻き尺で測れば、分度器なしで面積が出ます。「3 本の棒をつなぐとカチッと固まる」(第3章)のですから、3 辺で面積まで決まるのは当然なのですが、それを角を経由せずに一気に計算できる式にしたのがヘロンでした。
3 辺から面積を出す道は「余弦定理で角を経由する」か「ヘロンの公式で一気に」の 2 本あり、どちらも同じ答えになるということです。
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
【解答】
(余弦定理から) なので 、。
(ヘロンの公式から) なので
同じ答えになりました。 の値が三角定規の角にならないときでも、 と進めば面積は出ます。
三角形の 3 辺すべてに内側から接する円を内接円といい、その半径を と書きます。外接円が「3 頂点を通る円」だったのに対し、内接円は「3 辺に接する円」です。
内接円の中心 と 3 つの頂点を結ぶと、三角形 は ,, の 3 つに分かれます。円は各辺に接しているので、 から各辺までの距離はすべて です。つまり 3 つの小三角形の高さはどれも で
三角形 の面積を 、内接円の半径を とすると
ピザを中心から 3 切れに切るところを想像してください。切り口は中心から各辺に向かい、どの切れも「底辺は三角形の辺、高さは中心から辺までの距離」です。内接円の中心はすべての辺からの距離が等しい点なので、3 切れの高さがそろって になる——公式3はそれを足し合わせただけです。外接円は「三角形を囲む最小の輪」、内接円は「三角形の中に入る最大の円」と対にして覚えるとよいでしょう。
内接円の半径 は「面積 を周の長さの半分で割ったもの」で、 が正弦定理から出るのに対し は面積から出るということです。
三角形 で ,, のとき、内接円の半径 と外接円の半径 を求めなさい。
【解答】
例題2より , です。
公式3より
正弦定理 より
「余弦定理で角 → 面積 → 」と「余弦定理で角 → 正弦定理 → 」。どちらも角を 1 つ出すところまでは同じで、そこから道が分かれます。
4 つの頂点がすべて 1 つの円の上にある四角形を、円に内接する四角形といいます。中学で学んだとおり、円に内接する四角形では向かい合う角の和が です(同じ弦に対する円周角の関係から。証明は厳密定義ページ)。
四角形の問題は、対角線で 2 つの三角形に分けるのが基本です。四角形 を対角線 で切ると、三角形 と三角形 ができます。どちらの三角形でも余弦定理で を表せますから、その 2 つの式を等しいとおけます。このとき なので、第2章の公式から です。
円に内接する四角形 で、対角線 を引くと
この等式から が決まり、対角線 の長さと、面積 が求まります。
第3章で「四角形はぐらつく」と言いました。4 辺だけでは形が 1 つに決まらないからです。ところが「円に内接する」という条件を足すと、対角の和が に固定されて、ぐらつきが止まります。公式4の連立は、その「固定」を計算で取り出したものです。
円に内接する四角形は、対角線で 2 つの三角形に分け、 を使って余弦定理を連立すれば、角・対角線・面積がすべて求まるということです。
円に内接する四角形 で ,,, のとき、,対角線 ,四角形の面積 を求めなさい。
【解答】
三角形 で余弦定理より
三角形 で、 に注意して
2 式を等しいとおくと 、よって 、。したがって 。
面積は 2 つの三角形の和です。 なので
対角線を「2 つの三角形に共通の辺」と見て余弦定理を 2 回書く。これが円に内接する四角形の定石です。
第3章の小話で、フランスの測量隊が三角形をつないで子午線の長さを求めた話をしました。同じ考え方で、川の向こう岸までの距離や登れない山の高さを測ることができます。使う道具は正弦定理と、第1章の仰角です。
目標 の真下の地点を とし、地上の 2 地点 , から測るとき
川幅のように「距離」だけが欲しいときは、手順 2 で求めた辺から垂線の長さ( など)を計算します。
川の向こう岸に立つ木までの距離を、川を渡らずに測るにはどうすればよいでしょう。こちら岸で 2 地点を決めて間の距離を測り、それぞれの地点から木を見た角を測る。すると「1 辺と 2 角」がそろうので、正弦定理で木までの距離が計算できます。測量とは「測れないものを、測れる辺と角に置き換える」技術です。
届かない場所の距離や高さは、地上に「測れる 1 辺と 2 角」の三角形を作って正弦定理で辺を出し、仰角の で高さに直すという手順で求められるということです。
水平な地面の上に 2 地点 , があり、 です。山頂 の真下の地点を とすると、, で、 から山頂 を見上げた仰角は でした。目の高さを無視して、山の高さ を求めなさい。
【解答】
三角形 で 。正弦定理より
から を見上げた仰角が なので、直角三角形 で
「地上の三角形で距離」→「垂直な直角三角形で高さ」の 2 段構えです。測量では 2 つの三角形が別の平面(水平面と鉛直面)にあることを意識してください。
三角比は空間図形にも使えます。空間の問題を解く手順は 1 つだけ——平面の三角形を切り出すことです。切り出した三角形の中では、これまでの公式がそのまま使えます。
代表例が正四面体(4 つの面がすべて正三角形の三角錐)です。
1 辺の長さが の正四面体 で、頂点 から底面 に垂線 を下ろします。 なので、 は 3 点 ,, から等距離、つまり正三角形 の外接円の中心です。正三角形では外接円の中心と重心が一致するので、 は重心であり、 は中線の です。
1 辺 の正四面体で
3 本の支柱で立てるテントを思い浮かべてください。支柱の長さが同じなら、てっぺんは地面の 3 点の「真ん中」(重心)の真上に来ます。テントの高さは、支柱 1 本と「重心から支柱の足までの距離」で作る直角三角形から三平方の定理で出せます。正四面体の高さも、これとまったく同じです。
空間図形は「垂線を下ろして直角三角形を切り出す」か「面積が分かる三角形を切り出す」ことで平面の問題になり、三角比と三平方の定理で計量できるということです。
1 辺の長さが の正四面体 について、頂点 から底面 に下ろした垂線の長さ と、体積 を求めなさい。
【解答】
垂線の足 は正三角形 の重心です。 の中線の長さは なので
直角三角形 で三平方の定理より
底面 は 1 辺 の正三角形なので、公式1より面積は 。したがって
底面積に公式1()を使いました。正三角形の面積 は、この章の面積公式の特別な場合です。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
()
問2
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
( なので )
問3
三角形 で ,,、面積が のとき、内接円の半径 を求めなさい。
()
問4
3 辺の長さが ,, の三角形の面積を、ヘロンの公式を使って求めなさい。
(,)
問5
1 辺の長さが の正四面体の体積 を求めなさい。
()
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
公式1より
「2 辺の積 × はさむ角の ÷ 2」。はさむ角が なら、使う辺は と です。
問2 ★
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
はさむ角が なので、使う辺は と です。 より
鈍角でも は正なので、公式はそのままです。 が負になることとは関係ありません。
問3 ★
三角形 で ,, のとき、面積 を求めなさい。
余弦定理で角を 1 つ出します。
なので
ヘロンの公式でも から と同じ値になります。
問4 ★
三角形 で ,、面積が のとき、 を求めなさい。
公式1 に代入すると
でこれを満たす角は 2 つあります。
面積から角を求めると、 を経由するので鋭角と鈍角の 2 つが出ます。どちらも同じ面積の三角形なので、どちらかを捨てる理由はありません。
問5 ★
三角形 で ,、面積が のとき、 を求めなさい。
の二等辺三角形で、頂角が です。
問6 ★
3 辺の長さが ,, の三角形の面積 を求めなさい。
で、,, なので、ヘロンの公式より
と素因数分解すると が外れます。3 辺が整数の三角形では、ヘロンの公式がいちばん速い道です。
問7 ★
三角形 で ,, のとき、内接円の半径 を求めなさい。
まず面積です。 なので
公式3より
を求める問題は「面積を出してから公式3」の 2 段構えです。
問8 ★
平行四辺形 で ,, のとき、平行四辺形の面積 を求めなさい。
対角線 で切ると、合同な三角形 が 2 つできます。
平行四辺形の面積は「隣り合う 2 辺の積 × はさむ角の 」(三角形の 2 倍で が消える)と覚えられます。
問9 ★★
三角形 で ,, のとき、面積 、内接円の半径 、外接円の半径 を求めなさい。
余弦定理で角を 1 つ出します。
面積は公式1で
内接円の半径は公式3で
外接円の半径は正弦定理で
第3章 j14 と同じ三角形です。「余弦定理で角」までは共通で、そこから面積→、正弦定理→ に分かれます。
問10 ★★
三角形 で ,, とします。 の二等分線と辺 の交点を とするとき、 の長さを求めなさい。
とおきます。三角形 を線分 で三角形 と三角形 に分けると、それぞれ で の角をはさんでいます。面積の和が三角形 の面積に等しいので
で両辺を割ると
角の二等分線の長さは、「面積を 2 つに分けて足す」と長さの 1 次方程式になります。余弦定理で を出してから解く方法より、ずっと短い道です。
問11 ★★
円に内接する四角形 で ,,, のとき、、対角線 、四角形の面積 を求めなさい。
三角形 で 。
三角形 で、 より 。
等しいとおいて
よって , より 。
面積は 2 つの三角形の和で、 なので
問12 ★★
水平な地面の上に 2 地点 , があり、 です。山頂 の真下の地点を とすると、, で、 から山頂 を見上げた仰角は でした。目の高さを無視して、山の高さ を求めなさい。
三角形 で 。正弦定理より
直角三角形 で、仰角が なので
「地上の三角形(水平面)で距離 → 鉛直の直角三角形で高さ」の 2 段構えです。
問13 ★★
川のこちら岸に 2 地点 , があり、 です。向こう岸の木 について , でした。川の両岸が平行で、直線 がこちら岸に沿っているとき、川幅( から直線 までの距離)を求めなさい。
三角形 で 。 なので の二等辺三角形です(正弦定理 からも同じ)。
から直線 に下ろした垂線の長さは、 における外角 を使って
が鈍角なので、垂線の足は の外側に落ちます。それでも で同じ値になる——面積公式の高さ と同じ理屈です。
問14 ★★
1 辺の長さが の正四面体 について、頂点 から底面 に下ろした垂線の長さ と、体積 を求めなさい。
垂線の足 は正三角形 の重心です。中線の長さは なので
直角三角形 で
底面積は なので
公式6に を入れても , です。
問15 ★★
直方体 で ,, のとき、三角形 の面積 を求めなさい。
三角形 の 3 辺は、直方体の面の対角線です。三平方の定理より
3 辺が分かったので、平面の三角形として余弦定理から
空間の三角形も、3 辺さえ出せばあとは平面の問題です。「三平方で辺 → 余弦定理で → → 面積」の流れを覚えてください。
問16 ★★
三角形 で , とします。辺 上に となる点 、辺 上に となる点 をとるとき、三角形 と四角形 の面積の比を求めなさい。
三角形 と三角形 は角 を共有しているので、公式1より
三角形 の面積を とすると、三角形 は 、残りの四角形 は です。
角を共有する 2 つの三角形の面積比は、 が約分で消えて「角をはさむ 2 辺の積の比」になります。角の大きさを知らなくても比が出るのがポイントです。
問17 ★★★
円に内接する四角形 で ,,, のとき、 と四角形の面積 を求めなさい。
対角線 を引きます。三角形 で
三角形 で、 より
等しいとおいて ,,。
は三角定規の角ではありませんが、面積には があれば十分です。 より
なので
でくくると の形になります。小話で紹介するブラーマグプタの公式 ()でも と一致します。
問18 ★★★
1 辺の長さが の正四面体 に内接する球(4 つの面すべてに接する球)の半径 を求めなさい。
内接球の中心を とし、 と 4 頂点を結んで、正四面体を 4 つの三角錐 ,,, に分けます。球は各面に接しているので、どの三角錐も「底面は正四面体の面、高さは 」です。
j14 より、正四面体の体積は 、1 つの面の面積は なので
これは公式3(:内接円の中心から 3 つに分ける)の空間版です。「内接するもの」の半径は、面積・体積を分割して求める、と覚えてください。j14 の高さ と比べると になっています(正四面体では対称性から常にそうなります)。
問19 ★★★
水平な地面に立つ塔の高さを測ります。塔の真下の地点 から一直線上に離れた 2 地点 ,( のほうが塔に近い)で、 です。目の高さ の位置から塔の先端を見上げた仰角は、 で , で でした。 として、塔の高さを小数第 2 位を四捨五入して求めなさい。
約 ( m)
目の高さより上の部分の高さを m とします。 での仰角が なので 。 での仰角が なので
より なので
とすると 。目の高さを足して、塔の高さは
2 地点の仰角から高さを求める型です。三角形 ( は塔の先端)に正弦定理を使うと が必要になりますが、直角三角形を 2 つ使えば だけで済みます。分母の有理化を忘れないように。
問20 ★★★
四面体 で ,, であり、3 辺 ,, はどの 2 つも垂直です。頂点 から面 に下ろした垂線の長さ を求めなさい。
体積を 2 通りに表すのが定石です。
まず、, なので は面 に垂直です。三角形 を底面と見ると
次に、三角形 を底面と見ます。3 辺は三平方の定理より
余弦定理より
面 を底面、 を高さとして体積を表し、 と等しいとおくと
垂線の足がどこに落ちるかを図形的に探すのは大変ですが、体積を「分かりやすい底面」と「求めたい高さの底面」の 2 通りで書けば、足の位置を知らなくても が求まります。空間図形で垂線の長さを聞かれたら、まず体積を疑ってください。
ヘロンの公式のヘロンは、紀元 1 世紀ごろにアレクサンドリア(エジプト)で活動した数学者・技術者です。公式が載っているのは『メトリカ』(測量術)という本で、土地や器の大きさを測る実用書でした。3 辺を測れば角を測らずに面積が出る——ヘロンの公式は、まさに「測量の現場」から生まれた式です。
ただし、ヘロンの名前は数学よりも発明品で知られています。蒸気の力で球を回す「アイオロスの球」(世界最古の蒸気機関と呼ばれることがあります)、神殿の祭壇で火を焚くと自動で開く扉、硬貨を入れると聖水が出る装置。どれも見世物や神殿の仕掛けとして作られたもので、産業に使われることはありませんでした。
豆知識
『メトリカ』は長いあいだ行方が分からず、1896 年にイスタンブールで写本が見つかって初めて全体が読めるようになりました。ヘロンの公式の証明は、第3章の小話で触れた『原論』の図形の言葉で書かれていて、ヘロンもまたユークリッドの伝統の上に立っています(※ヘロンの活動年代は諸説あり。公式自体はアルキメデスが先に知っていたという説もあります)。
ヘロンの公式は三角形の 3 辺から面積を出す式でした。では四角形の 4 辺から面積は出せるでしょうか。答えは「そのままでは出ない」——四角形はぐらつくので、4 辺が同じでも面積が変わるからです。
ところが「円に内接する」という条件を足すと、ぐらつきが止まって面積が 1 つに決まります。7 世紀インドの数学者ブラーマグプタは、その面積を
と書きました。ヘロンの公式にそっくりですが、先頭の が に置き換わっています。 とすると四角形が三角形につぶれて、ちょうどヘロンの公式に戻ります。つまりヘロンの公式は、ブラーマグプタの公式の特別な場合だったのです。
豆知識
ブラーマグプタは、この公式を載せた本『ブラーマ・スプタ・シッダーンタ』(628 年)で、ゼロを数として扱う計算規則を初めて体系的に書いた人でもあります。「負の数 × 負の数は正」という規則も、この本に出てきます(※公式は「円に内接する」という条件なしで書かれており、条件を明示したのは後の時代とされます)。この章の j17 の四角形(辺が )は、ブラーマグプタの公式だと と一気に出ます。
世界最高峰エベレストの高さが初めて計算されたのは 1852 年。測ったのは登山家ではなく、インドで大三角測量を行っていた測量局の計算係でした。
第3章の小話で見たとおり、三角網を使えば「基線 1 本と角の測定」で遠くの地点までの距離が求まります。イギリスの測量局はこの方法でインド全土に三角網を広げていましたが、ヒマラヤの奥地には入れません。そこで、100 km 以上離れた平原の 6 か所の観測点から山頂を見上げ、水平方向の角と仰角を記録しました。観測点どうしの距離は三角網で分かっていますから、この章の例題5とまったく同じ手順——地上の三角形で距離を出し、仰角で高さに直す——で、山の高さが計算できたのです。
豆知識
こうして出た値は 29,002 フィート(約 8,840 m)。現在の公式値 8,848.86 m(2020 年)と、わずか 10 m ほどしか違いません。ただし、遠くの高い山を見上げると空気の屈折で実際より高く見えるため、その補正が計算の大きな部分を占めていました。エベレストという名前は、この測量局の前局長ジョージ・エベレストにちなんでいます(※「6 か所」などの観測の詳細は諸説あり)。
※ここは発展ページです。高校の範囲では「面積公式・ヘロンの公式・内接円の公式を使えること」で十分ですが、「なぜ鈍角でも同じ式なのか」「ヘロンの公式はどこから出てくるのか」「内接円はなぜ必ずあるのか」が気になる人のために、証明を紹介します。
三角形 の面積を で表す。三角形の 3 辺すべてに接する円を内接円といい、その半径を 、中心を内心 という。
三角形 において
証明 辺 を底辺とし、頂点 から直線 に下ろした垂線の長さを とする。 であるから、 を示せばよい。垂線の足を とし、 の大きさで場合を分ける。
(i) のとき。 は半直線 上にあり、直角三角形 で斜辺 、 の対辺が なので 。
(ii) のとき。 であり 。
(iii) のとき。 は に関して と反対側にある。直角三角形 において であるから 。第2章の定理3より なので 。
いずれの場合も 。(証明終)
第3章の正弦定理の証明と同じく、(iii) で が効いています。第2章で鈍角の三角比を定義したおかげで、面積公式も「場合分けなしの 1 本」として述べられるのです。
とおくと
証明 定理1より 。余弦定理より なので
右辺は の形(,)なので
ここで ,,, であるから
より 。(証明終)
証明の流れは、この章の本文で書いた「余弦定理 → → 面積」そのものです。文字のまま計算して、2 乗の差の因数分解を 2 回使うと、 を使った対称な形にまとまります。 などは三角形の成立条件(第3章 j17)そのものなので、根号の中は必ず正です。
任意の三角形 に内接円がただ 1 つ存在し、その半径 について
証明 (存在) と の二等分線は、三角形の内部で 1 点 で交わる。角の二等分線上の点は、その角を作る 2 辺から等距離にあるから、 は辺 , から等距離、かつ辺 , から等距離である。したがって は 3 辺すべてから等距離 にあり、 を中心とする半径 の円は 3 辺に接する。( が の二等分線上にもあることが同時に分かる。)
(一意性)3 辺に接する円の中心は 3 辺から等距離なので、 と の二等分線の交点、すなわち に限る。半径も から辺までの距離 に限る。
(面積) から辺 ,, に下ろした垂線の長さはすべて である。三角形 は三角形 ,, に分割され、それぞれの面積は ,, であるから、和をとって 。(証明終)
外接円は「3 頂点から等距離の点=辺の垂直二等分線の交点(外心)」、内接円は「3 辺から等距離の点=角の二等分線の交点(内心)」を中心にしています。 が正弦定理(角と辺)から、 が面積(辺と高さ)から出るのは、それぞれの円の定め方の違いを映しています。
四角形 が円に内接するとき である。
証明 円の中心を とする。 は弧 ( を含まない側)に対する円周角、 は弧 ( を含まない側)に対する円周角である。円周角は対応する中心角の半分なので、2 つの中心角の和は円周全体の であることから
(証明終)
この定理から , が従い、本文の公式4の連立が正当化されます。逆に「 なら四角形は円に内接する」も成り立ちます(円周角の定理の逆)。
補足:正四面体の垂線の足が重心になる理由。頂点 から底面 に下ろした垂線の足を とします。 で が共通、 なので、三平方の定理より 。つまり は ,, から等距離、すなわち三角形 の外心です。正三角形では外心・内心・重心が一致する(辺の垂直二等分線が同時に中線・角の二等分線になる)ので、 は重心でもあり、 は中線の になります。
一般の四面体では垂線の足の位置を求めるのは簡単ではありません。j20 のように体積を 2 通りに表す方法が便利なのは、足の位置を知らずに垂線の長さだけを取り出せるからです。
この章の学習が終わったら
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