問1
等式 が についての恒等式であることを確かめなさい。
答えを見る答えを閉じる
左辺を展開すると となり、右辺と同じ式になる。
目次 / 数と式 / 数学II
—— 「いつでも成り立つ等式」を見抜き、使いこなし、証明する ——
この章では、文字にどんな値を入れても成り立つ等式「恒等式」を学びます。前半では、恒等式になるように係数を決める2つの方法(係数比較法と数値代入法)を身につけ、第8章の部分分数分解の係数もこの方法で求めます。後半では、等式が成り立つことを証明する方法を扱います。左辺を変形する、両辺を変形する、差が $0$ になることを示す、という3つの型に加え、条件がついた等式や、$\dfrac{a}{b} = \dfrac{c}{d}$ のような比例式の扱い方まで進みます。ここで学ぶ証明の書き方は、次の第10章「不等式の証明」の土台になります。
これまでに のような展開の公式や、第8章の のような等式を使ってきました。これらは、文字にどんな数を入れても成り立ちます。一方、 は のときにしか成り立ちません。この章では、この2種類の等式のちがいをはっきりさせてから、「いつでも成り立つ」ことを利用したり証明したりする方法を学びます。
等式に含まれる文字にどのような値を代入しても(両辺が意味をもつ限り)成り立つ等式を、その文字についての恒等式という。
特定の値を代入したときにだけ成り立つ等式を方程式という。
たとえば は、左辺を展開すると右辺と同じ式になるので、 についての恒等式です。これに対して は のときだけ成り立つので、方程式です。
恒等式かどうかを調べるには、両辺を整理して同じ式になるかを見ます。反対に、成り立たない値が1つでも見つかれば、恒等式ではありません。第6章の「反例」と同じ考え方です。分数式を含む等式では、分母が になる値は最初から考えません。
長さを表すとき、 m と cm は、どんな長さの物を測っても同じ長さを表します。「 m cm」は がいくつでも正しいので、恒等式にあたります。一方、「 となる はいくつか」と問われたら、条件に合う を1つ探すことになります。これが方程式です。
恒等式は文字にどんな値を入れても成り立つ等式で、特定の値でだけ成り立つ方程式とは区別されるということです。
次の等式のうち、 についての恒等式であるものをすべて求めなさい。
(1)
(2)
(3)
【解答】
(1) 左辺を展開すると右辺と同じ式になるので、恒等式です。
(2) 左辺を展開すると なので、等式は と同じです。 のときしか成り立たないので、恒等式ではありません(方程式です)。たとえば を入れると、左辺は 、右辺は です。
(3) 左辺を通分すると
となり、右辺と同じ式なので、恒等式です( は分母が になるので考えません)。
よって、恒等式は です。
恒等式の性質を使うと、「ある等式が恒等式になるように、式の中の定数を決める」ことができます。その土台になるのが次の性質です。
特に、 が についての恒等式
3次以上の整式でも同じで、両辺の同じ次数の項の係数がすべて等しいことと、恒等式であることは同じである。
右から左(係数が等しければ恒等式)は明らかです。左から右(恒等式なら係数が等しい)は、「無限に多くの で等しい整式は、係数まで等しい」ということで、証明は発展ページで扱います。
この性質を使って、両辺を展開・整理し、同じ次数の係数どうしを等しいとおいて定数を求める方法を係数比較法といいます。
同じお店で同じ買い物をした2枚のレシートがあれば、品目ごとの個数はそろっているはずです。「パン 個・牛乳 本」と「パン 個・牛乳 本」では、合計金額がたまたま同じでも同じ買い物とはいえません。恒等式も同じで、 の係数、 の係数、定数項という「品目」ごとに一致していなければなりません。
恒等式では両辺の同じ次数の係数がすべて等しいので、係数どうしを等しいとおけば、未知の定数を求められるということです。
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を定めなさい。
【解答】
左辺を展開して、 について整理します。
これが と恒等的に等しいので、係数を比べて
1つめから 、2つめから 、3つめから です。
恒等式は、 にどんな値を入れても成り立ちます。そこで、計算が楽になる値を選んで代入し、定数の条件を取り出す方法もあります。
恒等式の両辺に都合のよい値を代入して、定数についての条件を求める方法を数値代入法という。
こうして得た条件は、恒等式であるための必要条件にすぎないので、求めた値で実際に恒等式になることを確かめる。
両辺が 次以下の整式のときは、異なる 個の値で両辺が等しければ、恒等式である。
「いくつかの値で成り立つ」だけでは、ほかの値でも成り立つとは限りません。そのため、最後の確かめが欠かせません。ただし、両辺が 次以下の整式なら、異なる つの値で等しいことが分かれば、それだけで恒等式だといえます(発展ページの定理3)。
壁に棒を留めるとき、釘が1本だけでは棒はくるくる回ってしまいますが、2本打てばぴたりと固定されます。直線(1次式のグラフ)が2点で決まるのと同じです。2次以下の式なら3つの値で「釘を打てば」形が1つに決まり、それ以上動く余地がなくなります。
数値代入法は都合のよい値を入れて定数を決める方法で、求めた値が本当に恒等式になるかを最後に確かめるということです。
例題2と同じ等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を数値代入法で定めなさい。
【解答】
となる を入れると、左辺の , の項が消えて
, を代入すると
を入れると , なので、, です。
逆に、,, のとき、両辺は 次以下の整式で、異なる つの値 で等しいので、恒等式です。実際、左辺を展開すると となります。
係数比較法と同じ答えになりました。 のように、項がまとめて消える値を選ぶのがコツです。
第8章の部分分数分解は、「恒等式になるように係数を決める」問題と見ることができます。
分数式を含む等式が恒等式となる条件は、両辺に分母をかけて分母を払い、整式の恒等式に直してから求める。
分母を払った整式の等式は、分母が になる値でも成り立つので、その値を代入してよい。
たとえば なら、両辺に をかけて とします。もとの等式には を入れられませんが、分母を払ったこの整式の等式は、, 以外のすべての値で成り立つので、無限に多くの値で成り立つ整式の等式として恒等式になります。したがって を入れてもかまいません。すると 、 を入れると と、すぐに求まります。
大きな交差点が工事で通行止めになっていても、地図の上では道路はちゃんとつながっていて、工事が終われば通れるようになります。分母が になる値は、分数式にとっての「通行止めの地点」です。分母を払った整式には通行止めがないので、その地点も含めて自由に代入できます。
分数式を含む恒等式は分母を払って整式の恒等式に直し、分母が になる値も代入して係数を求めてよいということです。
等式 が についての恒等式となるように、定数 , の値を定めなさい。
【解答】
両辺に をかけて分母を払います。
これも についての恒等式です。 を代入すると より 、 を代入すると より です。
逆に、, のとき、右辺は となり、恒等式です。
係数比較法なら、右辺を と整理して , を解きます。同じ答えになります。
ここからは、与えられた等式が恒等式であること、つまり「いつでも成り立つ」ことを証明します。
(1) を変形して を導く(または を変形して を導く)。
(2) , をそれぞれ変形して、同じ式 を導く。
(3) を変形して になることを示す。
(1) は、複雑なほうの辺から簡単なほうの辺へ向かって変形するのが基本です。両辺ともに複雑なときは (2) を使います。(3) は「 ならば 」という考え方で、第10章の不等式の証明でも同じ形( を示す)が主役になります。
長いトンネルは、山の両側から同時に掘り進め、真ん中で出会わせることがよくあります。(2) の方法はこれと同じで、左辺と右辺の両方から式を変形していき、同じ式にたどり着いたところで「つながった」と分かります。
等式の証明は、片方の辺をもう片方に変形するか、両辺を同じ式に変形するか、差が になることを示せばよいということです。
次の等式を証明しなさい。
(1)
(2)
【解答】
(1) 両辺をそれぞれ展開します(公式5 の (2))。
よって、(左辺) = (右辺) です。(証明終)
(2) 右辺のほうが複雑なので、右辺を変形して左辺を導きます(公式5 の (1))。
(証明終)
(2) の右辺は2乗の和なので、 以上です。この形は第10章で不等式を証明するときに役立ちます。
「 のとき」のように、条件がついた等式もあります。この場合、等式はすべての値で成り立つわけではなく、条件を満たす値についてだけ成り立てばよいのです。
条件の式を使って文字を1つ消去し、残りの文字についての恒等式として証明する。
例:条件 なら、 を代入して、, だけの式にする。
文字を消すかわりに、 のように条件の式を変形して、そのまま置きかえる方法もあります。どちらを使うかは、式の形を見て決めます。
3人でランチの割り勘をして、合計がちょうど 円だったとします。2人の支払いが 円と 円と決まれば、残り1人は 円と自動的に決まります。条件の式があるときも同じで、文字は3つあっても、自由に動けるのは2つだけです。そこで1つを消して、自由に動ける文字だけの式にしてから証明します。
条件つきの等式は、条件の式を使って文字を1つ減らしてから、残りの文字についての恒等式として示せばよいということです。
(1) のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。
(2) のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。
【解答】
(1) 差をとって になることを示します(公式5 の (3))。
より なので、差は です。よって です。(証明終)
(2) より です。これを代入すると
一方 なので、両辺は等しくなります。(証明終)
第2章の公式6( の因数分解)を使えば、因数 が になることからも示せます。
や のように、比の値が等しいことを表す式を比例式という。
比例式が条件として与えられたときは、その値を とおいて
と表し、文字を減らしてから計算する。
比例式の条件では、分母になる文字は でないものとして扱います。 のように3つ以上の比が等しいときも、同じように とおけば ,, と1つの文字 で表せます。
万 千分の の地図では、道の長さも川幅も、地図上の長さはすべて実際の長さの です。いろいろな長さがあっても、共通の縮尺さえ分かれば、どれも「実際の長さ 縮尺」で表せます。比例式の はこの縮尺にあたり、 とおくことで、ばらばらに見える文字を1つの物差しでそろえられます。
比例式は共通の比の値を とおくと、どの文字も を使って表せるので、式の計算に持ちこめるということです。
(1) のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。ただし、, とする。
(2) のとき、 の値を求めなさい。
【解答】
(1) とおくと、, です。
両辺とも に等しいので、等式は成り立ちます。(証明終)
(2) とおくと、 で、,, です。
なので、分母 は にならず、 で約分できます。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
等式 が についての恒等式であることを確かめなさい。
左辺を展開すると となり、右辺と同じ式になる。
問2
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を定めなさい。
(右辺の の係数は )
問3
等式 が についての恒等式となるように、定数 , の値を定めなさい。
(左辺 より ,)
問4
等式 を示しなさい。
左辺 で、右辺と等しい。
問5
のとき、 の値を求めなさい。
( とおくと , で )
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
(1)
(2)
(3)
(4)
上の (1)〜(4) の等式のうち、 についての恒等式であるものをすべて求めなさい。
(1),(3)
両辺を整理して、同じ式になるかを調べます。
(1) 右辺を展開すると で、左辺と同じです。恒等式です。
(2) 左辺は なので、等式は 、つまり のときだけ成り立ちます。たとえば で左辺 、右辺 となるので、恒等式ではありません。
(3) 右辺を通分すると
で、左辺と同じです。恒等式です( は考えません)。
(4) 左辺は なので、等式は となり、どんな でも成り立ちません。恒等式でも、解をもつ方程式でもありません。
よって、恒等式は です。
問2 ★
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を定めなさい。
両辺の同じ次数の係数を比べます。
2つめから 、3つめに を入れて です。
問3 ★
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を定めなさい。
右辺を展開して整理します。
左辺と係数を比べて
より 、さらに より です。
(確かめ) を入れると、左辺は 、右辺は で一致します。
問4 ★
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を数値代入法で定めなさい。
項がまとめて消える値から順に代入します。
を代入すると、, の項が消えて です。
を代入すると、 の項が消えて なので です。
を代入すると、 なので です。
逆に、,, のとき
となり、恒等式です。
問5 ★
等式 が についての恒等式となるように、定数 , の値を定めなさい。
両辺に をかけて分母を払います。
これも についての恒等式なので、 を代入して より 、 を代入して より です。
逆に、このとき右辺は となり、恒等式です。
問6 ★
等式 を示しなさい。
左辺を展開すると となり、右辺と等しい。
左辺を展開して、右辺を導きます。
(証明終)
と は打ち消し合い、 の奇数乗の項だけが2倍になって残ります。
問7 ★
等式 を示しなさい。
両辺とも展開すると になる。
両辺をそれぞれ展開して、同じ式になることを示します。
よって、(左辺) = (右辺) です。(証明終)
問8 ★
のとき、 の値を求めなさい。
とおくと、 で、,, です。
なので で約分できます。
問9 ★★
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,,, の値を定めなさい。
とおくと です。 がすべての値をとるとき もすべての値をとるので、 についての恒等式として考えられます。左辺を で表すと
右辺は なので、係数を比べて
(確かめ) を入れると、左辺は 、右辺は で一致します。
右辺をそのまま展開して係数比較してもよいのですが、 を1つの文字と見ると計算が短くなります。
問10 ★★
等式 が の値にかかわらず成り立つような , の値を求めなさい。
「 の値にかかわらず成り立つ」とは、 についての恒等式ということです。左辺を について整理します。
これが についての恒等式なので、 の係数と定数項がともに です。
2つめから 。1つめに代入して 、 より 、 です。
(確かめ), を入れると で、 によらず成り立ちます。
図形と方程式の分野では、これを「 の値によらず直線が定点 を通る」と読みます。
問11 ★★
整式 が で割り切れるように、定数 , の値を定めなさい。
次式を 次式で割った商は 次式で、 の係数が なので、商は ( は定数)とおけます。割り切れるので
が についての恒等式です。右辺を展開すると
係数を比べて
より です。
(確かめ) で、たしかに割り切れます。
第7章 j19 のように実際に割り算をして「余り 」とおいても解けます。
問12 ★★
等式 が についての恒等式となるように、定数 ,, の値を定めなさい。
両辺に をかけて分母を払います。
を代入すると より 。
を代入すると より 。
を代入すると より 。
逆に、このとき右辺を について整理すると、 の係数は 、 の係数は 、定数項は となり、恒等式です。
問13 ★★
等式 を示しなさい。
両辺とも になる。
両辺をそれぞれ展開します。
左辺の前半を展開すると、 から まで 個の項が出ます。後半は
なので、,, が打ち消し合って
右辺は
で、左辺と同じ項がそろっています。よって、(左辺) = (右辺) です。(証明終)
右辺は2乗の和なので 以上です。このことから
が分かります。第10章で学ぶ「コーシー・シュワルツの不等式」です。
問14 ★★
のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。
などを代入すると左辺 となり、例題6(2) より 。
条件から ,, です。これを代入すると
例題6(2) より、 のとき なので、かっこの中は です。よって、(左辺) です。(証明終)
文字を消去せず、条件の式を「」の形で置きかえると、式の対称性をくずさずに済みます。
問15 ★★
のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。
を代入すると左辺 。
より で、 です。これを代入して を消去します。
(分子と分母に をかけました。)よって
(証明終)
を消すと、第8章の繁分数式の計算になります。
問16 ★★
のとき、等式 が成り立つことを示しなさい。
, とおくと、両辺とも になる。
とおくと、, です(,)。
よって、(左辺) = (右辺) です。(証明終)
なので で、左辺の分母も になりません。
問17 ★★★
の2次式 で、 が についての恒等式となり、かつ を満たすものを求めなさい。
()とおきます。 より です。
これが と恒等的に等しいので、係数を比べて
より , です( も満たします)。
(確かめ) なので、 です。
は差をとると消えてしまうので、条件 がないと決まりません。
問18 ★★★
を満たすすべての , について が成り立つように、定数 ,, の値を定めなさい。
条件 から として を消去します。 は自由に動けるので、 についての恒等式を考えればよいことになります。
これが についての恒等式として に等しいので
より 、さらに より です。
(確かめ) で、たしかに成り立ちます。
問19 ★★★
のとき、この式の値を求めなさい。
または
式の値を とおくと、,, は でなく
3つの式を辺ごとに加えると
ここで が かどうかで場合を分けます。
(i) のとき、 です。
(ii) のとき、 なので です。
どちらも実際に起こります。たとえば なら値は 、,, なら3つの比はすべて です。
よって、式の値は です。
の両辺を で割って だけを答えるのは誤りです。 で割っていないかを確かめましょう。
問20 ★★★
のとき、,, のうち少なくとも1つは であることを示しなさい。
分母を払うと 、左辺 なので、どれかの因数が 。
分母になる ,,, はどれも ではありません。両辺に をかけて分母を払うと
つまり
左辺を について整理して因数分解します。
(2行目は、左辺を展開して の項 、 の項 、 を含まない項 を集めたものです。)
よって なので、,, のうち少なくとも1つは です。(証明終)
(確かめ),, とすると、左辺は 、右辺は で、 になっています。
第2章の「最も次数の低い文字(ここではどれも2次なので )で整理する」因数分解がそのまま使えます。
恒等式であることを特に強調したいとき、等号 の代わりに横棒を3本にした記号 を使うことがあります。 と書けば、「特定の で成り立つのではなく、いつでも成り立つ」という意味がはっきりします。
この使い方は、ドイツの数学者リーマンが1857年ごろの論文で用いたのが早い例だといわれています(※諸説あり)。一方で、それより前の1801年、ガウスは著書『整数論研究』で、同じ を「割った余りが等しい」という意味に使っていました。たとえば と はどちらも で割ると余りが なので
と書きます。これを合同式といいます。同じ形の記号に2つの意味があるので、どちらの意味かは文脈で読み分けます。日本の高校の教科書では、恒等式にも普通の を使うのがふつうです。
豆知識
合同式を使うと、曜日の計算が簡単になります。今日が月曜日なら、 日後は何曜日でしょうか。 なので です。 週間たつと同じ月曜日に戻り、そこから 日進んで水曜日だと分かります。
例題5(1) で証明した等式
は、「2つの平方数の和」どうしをかけると、結果もまた「2つの平方数の和」になることを表しています。
たとえば , です。,,, として当てはめると
となります。恒等式の を に置きかえた を使えば も得られ、 は2通りの平方数の和で表せることまで分かります。
この種の計算は古代ギリシャのディオファントスの『算術』(3世紀ごろ)にすでに数の例として現れているといわれ(※諸説あり)、7世紀インドのブラーマグプタは 年の著作で、これを含むより一般の形 を扱いました。そのため、この等式はブラーマグプタの恒等式(ヨーロッパに広めた人の名を加えて、ブラーマグプタ・フィボナッチの恒等式)と呼ばれています。
豆知識
同じことが「4つの平方数の和」でも成り立ちます。オイラーは1748年、友人ゴールドバッハへの手紙の中で、4つの平方数の和どうしの積が、また4つの平方数の和になる恒等式を書いています。この式は、のちにハミルトンが1843年に考え出した「四元数」という数のかけ算と、同じ仕組みをもっていることが分かりました。
2つの長い式が同じ式かどうかを、コンピュータに判定させたいとします。たとえば と、それを展開したと称する 個の項の式です。まじめに展開して係数を比べるのは大変です。
そこで、数値代入法の考え方が役に立ちます。 にでたらめに選んだ数を入れて、両辺の値を比べるのです。値がちがえば、2つの式は確実に別物です。値が一致したら、「たまたま一致した」可能性が残ります。
ところが、その可能性はとても小さいのです。2つの式が別物なら、差は でない 次以下の整式で、それが になる は多くても 個しかありません(発展ページの定理2)。 から 億までの整数から をでたらめに選べば、たまたま一致する確率は 以下です。何回か試して全部一致すれば、ほぼ確実に同じ式だといえます。
文字が何種類もある式でも同じような評価が成り立つことが、1979〜1980年にシュワルツとジッペルらによって示されました。「必ず正しい」ことを少しだけあきらめて、計算を大幅に速くする乱択アルゴリズムの代表例です。
豆知識
この考え方は、ふだんの検算にも使えます。 を展開した答え に を入れると 、もとの式に入れても です。1つの値で一致しても正しいとは言い切れませんが、一致しなければ確実にどこかが誤っています。
※ここは発展ページです。本文では、「恒等式なら同じ次数の係数がすべて等しい」ことや、「 次以下の式なら つの値で一致すれば恒等式」であることを、証明なしで使いました。ここでは、その根拠となる「 次の整式が になる値は多くても 個しかない」という事実を示し、そこから恒等式の性質を導きます。最後に、比例式の性質を1つ証明します。
, を実数を係数とする の整式とする。すべての実数 について が成り立つとき、等式 を についての恒等式という。
第1章の厳密定義では、2つの整式が「等しい」とは、同じ次数の項の係数がすべて等しいことだと定めました。これは式の形についての約束です。一方、定義1は、代入した値がいつも等しいという約束です。この2つが同じことだと示すのが、このページの目標です。
係数が等しければ、どの値を代入しても値は等しいので、「係数が等しい 恒等式」は明らかです。問題は逆向きです。
を整式、 を実数とする。 ならば、ある整式 を用いて
と表せる。 が 次()ならば、 は 次である。
証明 とする。 なので
である。ここで、 のとき
が成り立つ(右辺を展開すると、となりどうしの項が打ち消し合う)。各項から をくくり出せるので、 と表せる。 の最高次の項は で、 だから は 次である。(証明終)
これは第12章で学ぶ「因数定理」の一部です。ここでは、整式の除法を使わずに直接示しました。
零多項式でない 次の整式 について、 となる実数 は多くても 個である。
証明 が になる異なる値が ,,, の 個あるとして、 を示す。
定理1より で、 は 次である。 を代入すると であり、 だから となる。再び定理1より で、 は 次である。
同じことをくり返すと、 回目には 次の整式 が得られる。もし なら、 回くり返した時点で
となり、 は 次、つまり でない定数 である。ここに を代入すると、各因数 も も でないので、積は にならない。これは に反する。よって である。(証明終)
でない実数どうしの積は でない、という性質を最後に使いました。
, を 次以下の整式とする。異なる 個の実数 ,,, について が成り立つならば、 と は同じ次数の項の係数がすべて等しい。
証明 とおくと、 は零多項式であるか、 次以下の整式である。 となる値が 個あるので、定理2より は零多項式でなければならない(零多項式でないとすると、その次数を として だから、 になる値は多くても 個のはずである)。よって と の係数はすべて等しい。(証明終)
実数は無限にあるので、恒等式なら 個の値で一致するのはもちろんです。したがって、次のことが分かります。
が についての恒等式であることと、 と の同じ次数の項の係数がすべて等しいことは、同値である。
これが本文の公式2(係数比較法)の根拠であり、定理3は公式3(数値代入法)の最後の確かめを「異なる 個の値で等しいことを見れば十分」とする根拠です。
分数式を含む恒等式(公式4)で、分母を払った整式の等式に分母が になる値を代入してよかったのも、定理3のおかげです。分母を払った等式は、分母が になる有限個の値を除いたすべての実数で成り立ちます。そこから 個を選べば、定理3により係数まで等しくなり、結局すべての値で成り立つのです。
「値がいくつかで一致する」だけでは足りないことにも注意しましょう。 は の か所で になりますが、零多項式ではありません。 次式の場合、一致を確かめる値は 個必要です。
本文の例題7(1) では、 とおく方法で比例式の等式を示しました。同じ方法で、次の性質が一般に示せます。
で ならば
証明 とおくと、, である。よって
(証明終)
分子どうし・分母どうしを「加えた比」も同じ値になる、という意味で加比の理と呼ばれます。濃さ の食塩水と、同じ濃さ の食塩水を混ぜても、濃さは変わらないことに対応しています。条件 を外すと、 のように、右辺の分母が になって意味をもたない場合があります。
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