問1
原点まわりに 回転する一次変換を表す行列を求めなさい。
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(,)
目次 / 行列と一次変換 / 旧数学C(課程外)
—— 代表的な一次変換の行列を、基本ベクトルの行き先から作る ——
第 6 章で、一次変換の柱となる事実を手に入れました。**行列の 2 つの列は、基本ベクトル $\vec{e_1}$,$\vec{e_2}$ の行き先そのもの**。この章では、その 1 本だけを武器にして、図形の移動としてなじみのある操作を次々と行列に翻訳していきます。原点まわりの回転、原点を通る直線に関する対称移動、原点を中心とする拡大・縮小、軸方向の伸縮。どれも「$\vec{e_1}$ はどこへ行くか」「$\vec{e_2}$ はどこへ行くか」を図で読むだけで、行列が書けてしまいます。三角比と三角関数の第 9 章で加法定理から導いた回転の公式も、ここで行列の姿に書き直されます。行列は計算の道具から、平面の動きを記録する言葉になります。
原点まわりに角 だけ回す。図形の移動として、いちばんなじみのある操作でしょう。これを一次変換として書くには、第 6 章 公式4 のとおり、基本ベクトル 2 本の行き先だけを調べればよいことになります。
は、原点から右へ長さ のベクトルです。これを 回すと、長さは のままで、向きが 軸から になります。単位円の定義そのままで、行き先は です。
は真上を向いていて、 軸とのなす角が です。 回すと角は になるので、行き先は 。三角関数の公式でこれは です。
あとは 2 本を横に並べるだけです。
原点まわりに角 だけ回転する一次変換を とすると、 を表す行列は
である(第 1 列が 、第 2 列が )。したがって点 の像 は
は反時計まわりを正とする。この章では回転を表す行列を と書く。
下の連立の形に見覚えがあるかもしれません。三角比と三角関数の第 9 章 j18 で、加法定理を使って導いた回転の公式そのものです。あのときは , をいったん極形式に直し、加法定理で展開して整理する、という手順が必要でした。ここでは「 と の行き先を並べる」だけで同じ式が出ました。行列という器を用意したことで、導出が 2 行で終わったわけです。
第 6 章でゴムシートの例えを使いました。回転は、そのシートを伸ばしも縮めもせず、原点に刺した画びょうを軸にくるりと向きだけ変える操作です。手元の地図を傾けて持つのに近い。地図の上の建物どうしの距離や角度は何も変わらず、ただ北の向きが斜めになります。
回転を表す行列は、 が へ、 が へ移ることから、その 2 本を列として並べれば作れるということです。
原点まわりに 回転する一次変換を とする。次の問いに答えなさい。
(1) を表す行列を求めなさい。
(2) による点 の像を求めなさい。
(3) による点 の像を求めなさい。
【解答】
(1) , を公式1 に入れます。
(2)
(3)
答えの意味を確かめておきます。(2) の点 は原点からの距離 、向きは 。像 は距離が で変わらず、向きは です。(3) の点 は距離 ・向き で、像 は距離 ・向き 。どちらも距離はそのまま、向きが 増える。回転の答えは、この 2 点を見れば検算できます。
回してから、続けて 回せば、合わせて 回ったことになります。当たり前の事実ですが、行列の側ではどう見えるでしょうか。 と の積を計算してみます。
成分は 。加法定理そのもので、 です。 成分は 。残りの 2 つも同じように整理できて、結果は
角が足し算になりました。加法定理が、行列の積の中に隠れていたわけです。
また、行列式は
で、 によらず である。とくに は常に正則で、逆行列は の回転を表す。
は、 を繰り返し使えば出ます。 は からすぐです。
ここで 2 つ、注意があります。
ひとつめ。第 2 章でくどいほど述べたとおり、行列の積は一般に交換できません。ところが回転どうしは、角の足し算が交換できるおかげで が成り立ちます。回転は行列の世界では例外的に仲のよい仲間なのです。この先に出てくる対称移動や伸縮とは、順番を入れかえると結果が変わります(実践 j16)。
ふたつめ。「 が 回してから 回すことにあたる」という意味づけのほうは、まだきちんと証明していません。ここでは積を計算した結果が になった、という計算事実だけを使っています。移動を続けて行うことが行列の積にあたる、という一般の話は第 8 章で扱います。
ダイヤル錠のイメージが近いでしょう。 目盛り回してから 目盛り回すのは、 目盛り回すのと同じ。そして戻すときは同じ数だけ逆向きに回す。これが です。
回転を表す行列は、かけると角が足され、 乗すると角が 倍になり、逆行列は逆向きの回転になるということです。
とする。次の問いに答えなさい。
(1) を求めなさい。
(2) を求めなさい。
(3) 第 2 章 j13 で、 が をみたすことを確かめた。この がどんな一次変換を表すか答え、 の理由を回転の言葉で説明しなさい。
【解答】
(1) 公式2 より角が足されるだけです。
(2) です。, なので
(3) を公式1 と見比べます。, なので 。つまり は原点まわりに (時計まわりに )回転する一次変換を表す行列です。
の回転を 4 回続ければ 、つまり 1 周して元に戻ります。 はそのことを言っていたのです。
第 2 章では、この行列を「 回かけると に戻る不思議な行列」として、成分を 4 回かけ算して確かめました。正体が回転だと分かれば、計算せずとも の答えが見えます。 なので です。(2) の が と同じ行列になったのも、 の回転と の回転が同じ動きだからです。
は、第 6 章 公式6 の原像をさがすときにそのまま使えます。「回したあとの位置」が分かっていて「回す前の位置」を知りたいのなら、逆向きに回せばよい。ビデオの巻き戻しと同じ発想です。
原点まわりに 回転する一次変換 によって点 に移る点を求めなさい。
【解答】
求める点を とすると です。両辺に左から をかけます。
第 6 章の例題6 では逆行列の公式 を使いましたが、回転なら の符号を変えるだけで済みます。 なので分数も出てきません。
検算は向きと距離で。点 は距離 ・向き 、像 は距離 ・向き です。
次は、原点を通る 1 本の直線を鏡に見立てて、平面を裏返す操作です。直線を とし、 が 軸となす角を とします。つまり は です( のときは 軸)。
ここでも調べるのは基本ベクトル 2 本の行き先だけ。折り紙を思い出してください。 を折り目として紙を折ると、 は折り目の向こう側に写ります。このとき、折り目までの角と同じ角だけ、折り目の向こう側へ回る。 の向きは で、折り目までの角は 。だから像の向きは をさらに 越えて になります。長さは のままですから、行き先は です。
の向きは で、折り目までの角は 。像の向きは になり、行き先は です。並べます。
原点を通り、 軸とのなす角が である直線 ()に関する対称移動を表す行列は
である。現れるのは であることに注意する。行列式は
で、常に である。代表的な場合は次のとおり。
| 行列 | ||
|---|---|---|
| 軸 | ||
| 直線 | ||
| 軸 | ||
| 直線 |
が出てくるところが、この公式の山場です。 をなす角が なら、 は ではなく の向きへ移ります。折り目の手前で 、先でもう 進むからです。 の傾きが与えられているときは、まず から を読み、 に直してから行列を書く、という順番を守ってください。
行列式が という事実も覚えておく価値があります。回転は 、対称移動は 。この符号の違いが「裏返したか、裏返していないか」を表しています。理由は第 9 章で面積と結びつけますが、判別にはいま使えます。 の符号を見れば、回転と対称移動を見分けられるのです。
なお、 自身の上にある点は動きません。折り目の上の点は、折っても位置が変わらないからです。 の上にない点で、動かないのは原点だけです。
原点を通り 軸と をなす直線に関する対称移動の行列は で書かれ、行列式は必ず になるということです。
直線 に関する対称移動を表す一次変換を とする。次の問いに答えなさい。
(1) を表す行列を求めなさい。
(2) による点 の像を求めなさい。
(3) による点 の像を求めなさい。
【解答】
(1) 傾きが なので 、つまり です。公式3 に使うのは で、,。
(2)
距離は のまま、向きは から へ。たしかに だけ回っています。
(3)
もとの点と同じになりました。ミスではありません。 なので点 は の上にあり、折り目の上の点は動かないのでした。
例題1 (3) では、同じ点 が 回転で に移りました。いっぽう例題4 (2) では、点 が対称移動で に移っています。行き先が同じでも、平面全体の動かし方はまるで違う。1 点の像だけでは変換を特定できないという第 6 章の教えを、具体例で見ていることになります。
いちばん単純な一次変換は、平面をそのままの形で大きくしたり小さくしたりする操作です。点 を に移すのですから、行列は です。第 2 章で を「数の化身」と呼びましたが、変換として見れば倍率 の拡大でした。
いずれも第 6 章 公式4 のとおり、各列が , の行き先である。 の は、 倍の拡大と原点に関する対称移動( 回転)を合わせたものになる。
拡大はコピー機の倍率そのものです。A4 の原稿を A3 に引き伸ばすときの が、 にあたります。全体が同じ割合で大きくなるので、形は変わりません。
のほうは、 だと形が変わります。 の映像を の画面いっぱいに無理に広げたときの、横に伸びた顔を思い出してください。 軸方向だけ伸ばすので、円は楕円になります。
せん断は、トランプの束を上から横へ押したときの形です。一番下のカードは動かず、上へ行くほど大きくずれる。文字の斜体(イタリック)も、まっすぐな字にせん断をかけたものです。第 2 章 例題7 で の 乗を計算して になりましたが、あれは「同じせん断を 回かければ、ずれも 倍になる」という当たり前の事実だったのです。
は形を変えない拡大、対角成分が違う は軸方向だけの伸縮、 は片側をずらすせん断だということです。
次の一次変換を表す行列を求め、点 の像を求めなさい。
(1) 原点を中心とする 倍の拡大
(2) 軸方向に 倍、 軸方向に 倍する変換
(3) が表す変換(点 の像もあわせて求めなさい)
【解答】
(1) で、像は 。原点からの向きは変わらず、距離だけ 倍になります。
(2) 行列は です。
横に広がり、縦につぶれました。行列式は で、伸びとつぶれがちょうど釣り合っています。
(3) 各列を読むと、 は のまま動かず、 が に移ります。
座標は変わらず、 座標だけが の 倍ぶん右へずれています。高さ の点は ずれ、高さ の点は ずれる。 軸上(高さ )の点はまったく動きません。
第 3 章の厳密定義で、 という形の行列だけを集めると、足し算・かけ算について複素数とまったく同じようにふるまう、という話をしました。その正体をここで明かします。
(ただし )とおき、 とします。 なので、, をみたす が取れます。すると
のとき
すなわち、この形の行列は原点まわりに 回転して、原点を中心に 倍に拡大する変換を表す。行列式は である。また と は交換可能なので
が成り立つ。
が の 2 乗になるのは、縦にも横にも 倍しているからです(面積との関係は第 9 章)。
うず巻きを思い浮かべてください。 を何度もかけていくと、点は回りながら原点から遠ざかっていきます。 なら外へ広がるうず、 なら内へ吸い込まれるうず。オウムガイの殻やヒマワリの種の並びが、この形の変換を繰り返した跡だと考えられています。
という式は、第 3 章の厳密定義で「複素数 の絶対値の 2 乗にあたる」と書いたものです。行列の言葉で言えば、 が複素数 の化身で、その が絶対値、 が偏角。複素数をかけることが「回転と拡大」だという話は、複素数平面と曲線の第 2 章でも出てきました。同じ事実を、いま行列の側から見ていることになります。詳しくは小話 kb3 で。
の形の行列は、 倍の拡大と の回転を同時に行う変換で、 乗すると倍率が 、角が になるということです。
について、次の問いに答えなさい。
(1) を の形に表しなさい。
(2) による点 の像を求めなさい。
(3) を求めなさい。
【解答】
(1) , の形なので
念のため確かめます。 で、 と一致します。
(2) は距離 ・向き なので、像は距離 ・向き です。
(3) 公式5 より、倍率は 乗、角は 倍になります。
第 5 章では、 を求めるのに次数下げや数学的帰納法が必要でした。回転と拡大に分けられる形なら、角を 倍して倍率を 乗するだけで終わります。変換として読めると計算が軽くなる、その典型例です。
ここまでは「こういう動きの行列を書きなさい」という向きでした。逆向き、つまり与えられた行列がどんな動きなのかを読む練習もしておきます。手順は次の 3 段です。
の符号だけで回転と対称移動が仕分けられるところが便利です。回転は裏返さず()、対称移動は裏返す()。この 2 つが、原点からの距離を変えない一次変換のすべてであることも証明できます(実践 j19)。
次の行列が表す一次変換は、原点まわりの回転か、原点を通る直線に関する対称移動のいずれかである。回転ならその角、対称移動ならその直線を求めなさい。
(1)
(2)
(3)
【解答】
(1) なので対称移動です。公式3 と見比べると , より 、。 なので
が に移る、つまり座標を入れかえる変換です。 を折り目にすれば、たしかに縦と横が入れかわります。
(2) なので回転です。, より
(3) なので対称移動です。, より 、。 なので
をそのまま と読んでしまい、 と答えるのがいちばん多い誤りです。対称移動の行列に入っているのは 。読み取ったら必ず半分にしてください。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
原点まわりに 回転する一次変換を表す行列を求めなさい。
(,)
問2
原点まわりに 回転する一次変換による点 の像を求めなさい。
点 (距離 のまま、向きが )
問3
軸に関する対称移動を表す行列と、その変換による点 の像を求めなさい。
、像は点
問4
原点を中心として 倍に拡大する一次変換を表す行列を求めなさい。
問5
回転を表す行列を と書くとき、 を求めなさい。
(角が足される)
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
次の 4 つの角
(1) (2) (3) (4)
について、原点まわりにその角だけ回転する一次変換を表す行列をそれぞれ求めなさい。
(1) (2) (3) (4)
公式1 の に値を入れるだけです。
(1) 。
(2) ,。
(3) , です。 成分は なので になります。符号を 2 回変えることになるので、いちばん間違いやすいところです。
(4) , なので です。
問2 ★
原点まわりに 回転する一次変換 による、(1) 点 、(2) 点 、(3) 点 の像をそれぞれ求めなさい。
(1) 点 (2) 点 (3) 点
と、共通の をくくり出しておくと計算が楽です。
(1)
(2)
(3)
向きで検算できます。(2) の点 は向き なので、像は 、つまり 軸上に来るはずで、たしかに 座標が です。(3) の点 は向き なので像は 、つまり 軸上です。
問3 ★
次の 4 つの対称移動
(1) 軸に関する対称移動 (2) 軸に関する対称移動
(3) 直線 に関する対称移動 (4) 原点に関する対称移動
について、それを表す行列と、その変換による点 の像をそれぞれ求めなさい。
(1) 、点 (2) 、点 (3) 、点 (4) 、点
(1) 、 なので 。 の符号だけ変わります。
(2) 、 なので 。 の符号だけ変わります。
(3) 、 なので 。座標が入れかわります。
(4) 原点に関する対称移動は なので です。これは直線に関する対称移動ではなく、 の回転です(j06)。 なので、公式3 の形にはあてはまりません。
(1)〜(3) の行列式はどれも 、(4) だけ 。この違いが「裏返したかどうか」の違いです。
問4 ★
原点まわりに 回転する一次変換 について、点 の像と、 によって点 に移る点を求めなさい。
像は点 、点 に移る点は点
です。像は
原像は逆向きに 回せばよいので、 をかけます。
検算します。 で条件どおりです。 回転は 、 回転は と覚えておくと速く動けます。
問5 ★
軸方向に 倍、 軸方向に 倍する一次変換を表す行列と、その変換による点 の像を求めなさい。
、像は点
は 軸方向に 倍されて へ、 は 軸方向に 倍されて へ移ります。これを列として並べると です。
対角成分だけの行列(対角行列。第 5 章)では、 座標と 座標が混ざりません。 で、面積は 倍になります(第 9 章)。
問6 ★
行列 が表す一次変換は原点まわりの の回転であり、これは原点に関する対称移動と同じであることを示しなさい。
で、どちらも点 を点 に移すので一致する。
まず公式1 に を入れます。, なので
次に、 による点 の像を計算します。
点 は、線分の中点が原点になる位置、つまり原点に関して点 と対称な点です。よって が表す変換は原点に関する対称移動でもあります。
半回転すると、点は原点をはさんだ反対側に来る。図で見ればあたりまえのことですが、 という等式の形で書けたおかげで、第 1 章で導入した「」という記号と、変換としての意味がつながりました。なお なので、これは裏返しではありません(直線に関する対称移動とは別物です)。
問7 ★
回転を表す行列 の行列式が であること、原点を通る直線に関する対称移動を表す行列 の行列式が であることを示しなさい。
、
回転のほうは
対称移動のほうは
どちらも ひとつで片づきます。
結果の意味のほうが大切です。 が なので、どちらも ではなく、回転も対称移動も必ず逆行列をもちます(正則である)。そのうえで符号が違う。 の絶対値が面積の倍率、符号が裏返しの有無を表すことは第 9 章で示しますが、いまは回転は 、対称移動は で仕分けられるという判別の道具として使えます。
問8 ★
とする。 と を成分で計算し、それぞれ , の回転を表す行列と一致することを確かめなさい。
、
です。 をくくり出して としておきます。
約分すると で、, ですから です。
, なので と一致します。公式2 を使えば , と即答できますが、一度は成分で確かめておくと、公式2 が加法定理そのものだという実感が持てます。
問9 ★★
のとき、 を求めなさい。
成分を公式1 と見比べます。, なので 、つまり です。
公式2 より
の回転は 回で 1 周して に戻ります()。そこで を で割ります。
よって答えは そのものです。 を で割った余りを見ても同じで、 なので に戻ります。
第 5 章では、周期を見つけて余りで考える方法を「 の求め方その 2」として扱いました。回転だと分かれば、周期は「 周が何回分か」を数えるだけで出ます。
問10 ★★
直線 に関する対称移動を表す行列と、その変換による点 の像を求めなさい。
、像は点
傾きが なので 、つまり です。公式3 に入れるのは で、,。
像を計算します。
向きで検算します。点 は距離 ・向き 。折り目 の向きは なので、 から点までの角は 。折り返すと の反対側へ なので、像の向きは です。距離 ・向き の点は で一致します。
問11 ★★
を の形に表し、 を求めなさい。
、
の形かどうかを確かめます。, とすると で、たしかにこの形です。
が負・ が正なので第 2 象限、 です。よって 。
乗は公式5 のとおり、倍率が 乗・角が 倍になります。
です。 なので 。
第 5 章のやり方でも解けます。 の対角和は 、 なのでケーリー・ハミルトンの定理から 。ここから次数下げを繰り返せば同じ答えに着きますが、回転と拡大に分ければ指数法則だけで済みます。
問12 ★★
次の 3 つの行列
(1) (2) (3)
が表す一次変換は、いずれも原点まわりの回転か、原点を通る直線に関する対称移動である。回転ならその角を、対称移動ならその直線をそれぞれ求めなさい。
(1) 原点まわりに の回転 (2) 軸に関する対称移動 (3) 直線 に関する対称移動
まず を計算して仕分けます。
(1) なので回転です。,( 成分が )なので 。時計まわりに 回す変換です。
(2) なので対称移動です。, より 、。なす角 の直線は 軸です( は定義されないので、傾きの式では書けません)。実際 で、 の符号だけが変わっています。
(3) なので対称移動です。, より 、。 なので直線 です。 で、たしかに を折り目にした入れかえになっています。
(1) と (3) は の値が同じ なのに、意味がまったく違います。回転の行列では が回転角そのもの、対称移動の行列では行列に入っているのが 。読み取る前に で仕分ける、という手順を崩さないことが大切です。
問13 ★★
点 を原点まわりに だけ回転すると点 になった。 として を求めなさい。
距離と向きで考えるのがいちばん速い道です。
距離はどちらも で、回転で距離が変わらないことと合っています(合わなければ回転では移せません)。
点 の向きは 。点 の向きは 。回転で向きは だけ増えるので
成分で解くこともできます。 より
上の式を 倍して下の式を足すと なので 。これを上の式に戻して 。 で , をみたすのは だけです。
検算。 は なので で条件どおりです。
問14 ★★
原点を通る直線に関する対称移動を表す行列を とする。 を示し、 の逆行列を求めなさい。
。したがって ( 自身が逆行列)。
, と略記して計算します。
と、非対角成分がきれいに打ち消し合うことで になりました。
とは ということなので、逆行列の定義(第 3 章)からそのまま
です。逆行列の公式を使っても同じ結果になります。 なので
意味は明らかです。同じ折り目で 2 回折り返せば、もとの位置に戻る。裏返したものをもう一度裏返せば表に戻るからです。回転の と違い、対称移動は逆向きというものがなく、自分自身が逆になっています。第 5 章 j17 で「一度つぶしたものをもう一度つぶしても変わらない」 の行列を扱いましたが、こちらは 。 回で元に戻る変換を対合といいます。
問15 ★★
回転を表す行列 について を示し、原点まわりに 回転する一次変換によって点 に移る点を求めなさい。
より 。求める点は点 。
公式2 の に , を入れると
左右どちらからかけても になるので、逆行列の定義より です。成分で確かめても同じです。 なので
これは , を使えば です。
原像を求めます。 を、与えられた点にかけます。
向きで検算します。点 は距離 、向きは 。ここから 戻せば向き ・距離 、つまり点 です。
問16 ★★
を原点まわりに 回転する行列、 を 軸方向に 倍する行列とする。 と を求めて一致しないことを示し、点 に対する と による像がそれぞれ何になるかを求めなさい。
、 で 。像は で点 、 で点 。
、 です。
成分が と で違うので です。点 の像は
で、点 と点 。行き先が違います。
第 2 章で「靴下をはいてから靴をはく」と「靴をはいてから靴下をはく」の違いとして交換法則の破れを見ました。ここではそれが図形の動きとして目に見えます。写真を先に横へ引き伸ばしてから傾けるのと、先に傾けてから横へ引き伸ばすのでは、仕上がりが違う。引き伸ばす向きが 軸に固定されているせいで、傾けたあとでは「どこを引き伸ばすか」が変わってしまうのです。
いっぽう、回転どうしは順序を変えても同じでした(公式2)。交換できるかどうかは相手によって決まる。式の変形で と を入れかえたくなったら、毎回この確認が必要です。
問17 ★★★
とする。ケーリー・ハミルトンの定理(第 5 章)を に適用した等式を書き、それを使って を と の1次結合で表しなさい。さらに であることと成分を比べて、 と を , で表しなさい。
、、 、
の対角和は 、行列式は (j07)です。ケーリー・ハミルトンの定理より
両辺に をかけ、もう一度この式で を置きかえます(第 5 章の次数下げ)。
いっぽう公式2 より です。上で求めた式を成分で書くと
成分を比べます。
成分を比べます。
を入れると
三角関数で加法定理から導いた 3 倍角の公式が、そのまま出ました。
同じ理屈で 倍角も作れます。第 5 章では、ケーリー・ハミルトンの定理は「 を計算するための道具」でした。回転に使うと、それが三角関数の公式を生む装置に変わる。 という、 が背負う 2 次方程式が、 倍角の公式の出どころだったわけです。
問18 ★★★
原点を通り 軸とそれぞれ , をなす 2 直線に関する対称移動を表す行列を , とする。積 が回転を表す行列であることを示し、その回転角を求めなさい。
。回転角は 、すなわち 2 直線のなす角の 倍。
公式3 のとおり 、 です。積を成分ごとに計算します。
成分:
成分:
成分:
成分:
どれも加法定理(差の形)でまとめられました。 とおいて並べると
つまり です。
公式1 の形そのものなので、これは回転を表す行列で、回転角は です。
行列式でも筋が通ります。 で、積の行列式は行列式の積(第 3 章 teigi 定理3)なので 。裏返しを 2 回すれば表に戻り、回転の仲間に帰ってくるわけです。
万華鏡の中をのぞくと、鏡が 枚で像がぐるりと並ぶのは、この事実によるものです。 枚の鏡のなす角が なら、 回の折り返しは の回転にあたり、 ずつ回った 枚の像が円をなします。なお と は、 なら別物です。折り返す鏡の順序を変えると、回る向きが逆になります。
問19 ★★★
行列 が表す一次変換が、平面上のどの点についても原点からの距離を変えないとする。このとき は回転を表す行列か、原点を通る直線に関する対称移動を表す行列のいずれかであることを示しなさい。
,, に条件を使うと ,, が出る。これより または 。
条件は「すべての について 」です。まず、都合のよい 3 つのベクトルに使います。
に使うと、 で なので
に使うと、 より
に使います。像は 、もとの長さの 2 乗は なので
展開して (1),(2) を使うと
(1) より、, とおける が存在します(点 が単位円上にあるから)。(3) は「 と の内積が 」、つまり 2 本が垂直だという式です(ベクトル 第 3 章)。 に垂直で、(2) より長さ のベクトルは 2 つしかありません。
前者なら
で回転を表す行列です。後者なら
これは公式3 で の位置に が入った形なので、 をなす角とする直線に関する対称移動 です。以上でどちらかに決まりました。
逆に、回転と対称移動が距離を変えないことは図から明らかです。よって原点からの距離を保つ一次変換は、回転と対称移動でちょうど尽くされている。 が回転、 が対称移動という仕分け(例題7)に、これで裏づけが付きました。紙を破らず伸ばさずに動かすなら、回すか裏返すかしかない、ということです。
なお条件を 3 つのベクトルだけで使ったのに、すべての についての結論が出ました。一次変換の線形性(第 6 章 公式3)が効いているためで、, の行き先さえ押さえれば全体が決まるという第 6 章 公式4 の言い直しになっています。
問20 ★★★
原点と異なる点 を、原点まわりに , 回転した点をそれぞれ , とする。次の問いに答えなさい。
(1) 三角形 が正三角形であることを示しなさい。
(2) 三角形 の重心が原点であることを示しなさい。
(1) 。 (2) より なので重心は原点。
、, とおくと ,, です。 とします。
(1) です。
これは の形(,)なので、公式5 より倍率
の回転と拡大です。回転は長さを変えないので 。
ですが、 なので と書けます。 をかけても長さは変わらないので
で、
も同じ形で、 倍。よって 。
3 辺がすべて ( より正)で等しいので、三角形 は正三角形です。
(2) 3 つの位置ベクトルの和を計算します。
対角成分は 、非対角成分は で、零行列になります。したがって
重心の位置ベクトルは (ベクトル 第 4 章)なので、重心は原点です。
は、 が にあたる関係()を背負っていることの現れです。 の後ろの因数に を入れると 。1 の 3 乗根 が をみたすのと同じ形です(複素数と方程式 第 4 章)。正三角形の 3 頂点が「 の 3 乗根」と結びつくのは偶然ではありません。
雪の結晶は六角形。塩の結晶は立方体。鉱物の標本を見ていると、形にいくつかの決まった型があることに気づきます。では、正五角形の断面をもつ結晶はあるでしょうか。
ありません。 そして、無いことは行列で証明できます。
結晶とは、原子が同じ模様を繰り返して並んだものです。繰り返しの単位となる 2 本のベクトル , を取ると、原子の位置は (, は整数)と書けます。この点の集まりを格子といいます。
さて、この結晶を原点まわりに 回したとき、格子がぴったり自分自身に重なったとしましょう。回転で が移った先は格子の点なので、整数 , を使って と書けます。 の像も同じく整数の組で書けます。つまり、, を目盛りにして座標を取り直すと、回転を表す行列の 4 つの成分がすべて整数になるのです。
ここで第 5 章の厳密定義を思い出します。目盛りを取り直しても、行列の対角和は変わりません( の対角和は の対角和と等しい)。もとの座標で見た回転の行列は で、対角和は 。取り直した座標では成分が整数なので、対角和も整数。よって
なので は の 5 通りしかありません。順に を求めると
| 何回対称 | 回 | 回 | 回 | 回 | 回 |
回、 回、 回、 回。 回だけ、そして 回以上も、きれいに飛ばされています。 回対称は で、。整数ではないので、格子を自分自身に重ねられません。これを結晶学的制限定理といいます。台所の床に正五角形のタイルを隙間なく敷けないのと、根は同じ話です。
ところが 1982 年、この定理が破られたように見える事件が起きます。アルミニウムとマンガンの合金を調べていたダニエル・シェヒトマンが、電子線を当てて得た模様に 回対称のきれいな斑点を見たのです。あり得ない。彼はノートに「 回??」と書き残しました。
周囲の反応は冷たいものでした。所属していた研究チームからは外され、論文はいったん却下されます。2 度のノーベル賞を受けたライナス・ポーリングは「準結晶などというものはない、いるのは準科学者だ」と言い放ったと伝えられます。
決着まで、およそ 10 年。結論は「定理は正しかった」でした。破れたのは定理ではなく、「結晶は模様を繰り返している」という前提のほうだったのです。シェヒトマンが見つけた物質は、繰り返しではないのに秩序がある、まったく新しい並び方をしていました。いまは準結晶と呼ばれます。数学の側には先例があって、1974 年にロジャー・ペンローズが 2 種類のひし形で平面を隙間なく埋める方法を見つけていました。どこまで行っても同じ模様が繰り返さないのに、 回対称の名残がある不思議な模様です(さらに古いイスラム建築のタイル装飾にも同じ構造が見られるといいます。※諸説あり)。
2011 年、シェヒトマンはノーベル化学賞を受けました。
豆知識
準結晶が「繰り返さないのに秩序がある」のは、高い次元で考えると見通しがよくなります。 次元の格子をうまく斜めに切って平面に影として落とすと、準結晶の並びが現れる。第 6 章の小話で「平行移動を一次変換にするために平面を空間へ埋め込んだ」話をしましたが、次元を上げると窮屈さが消えるという同じ発想です。
回転の行列式は 、対称移動の行列式は 。この符号の違いは、見た目の差以上に深いものです。
回転の角 を からゆっくり増やしていっても、行列式はずっと のままです。対称移動の に到達することは、けっしてありません。数値が から へ移るには途中で を通らなければならず、 の変換は平面をつぶしてしまう別物です。つまり回転をどれだけ続けても、裏返すことはできない。裏返しと裏返さないの間には、連続的に渡れない溝があります。
手を見てください。右手と左手は鏡に映した形どおりで、どこも寸法が違いません。それでも右手の手袋を左手にはめることはできない。どう回しても重ならないからです。この性質をキラリティ(掌性)といいます。
ところで、鏡は本当に左右を入れかえているのでしょうか。
そうではありません。鏡が入れかえているのは前と後ろ、つまり鏡に垂直な向きだけです。鏡に向かって右手を挙げれば、像も画面の右側で手を挙げています。左右はそのままなのです。それを「左右が逆」と感じるのは、わたしたちが像を「自分がぐるりと振り向いて向こうを向いた姿」と見比べてしまうからです。振り向く動作( 軸まわりの 回転)を勝手に補ってから比べるので、差が左右に押しつけられる。紙に書いた字が鏡で読めなくなるのも、鏡のせいというより、紙を裏返して透かし見ているのと同じことです。
キラリティは化学では香りや薬の効き方を変えます。カルボンという分子には右手型と左手型があり、片方はスペアミント(ハッカ)の香り、もう片方はキャラウェイ(ヒメウイキョウ)の香りがします。同じ原子が同じつながり方をしていて、鏡像の関係にあるだけなのに、鼻は区別する。においを感じる受容体の側にも形があるので、右手用の鍵穴に左手型の鍵が入らないのです。
そして、いちばん不思議なこと。地球の生き物の体を作るアミノ酸は、ほぼすべてが左手型です。右手型でも化学としては何の問題もないのに、生命はなぜか片方だけを選んでいます。理由はまだ分かっていません。
豆知識
の直交行列だけを集めた仲間(回転だけの集まり)を 、裏返しも入れた全体を と書きます。厳密定義ページで扱います。3 次元では の変換に「点対称」(、すべての座標の符号を変える)が入ります。2 次元では が 回転で だったのに、3 次元だと で裏返しになる。裏返しかどうかは次元によって顔を変えます。
第 3 章の厳密定義で、 という形の行列を集めると複素数とそっくりになる、という話をしました。公式5 でその正体が「回転と拡大」だと分かったので、あらためて並べてみます。
対応させるのは です。すると虚数単位 にあたるのは
は の回転でした。 も意味が読めます。 回転を 2 回すれば 回転、行列で 、数で 。
このほうが「 乗して になる数」という説明よりずっと納得しやすいかもしれません。 をかけるとは、数直線の上で原点の反対側に飛ぶこと、つまり半回転です。ならばその半分の動き、 の回転にあたる数があってもよい。それが です。 は数直線からはみ出しますが、平面の上でなら堂々と座っています。
ド・モアブルの定理
も、公式2 の と同じ内容です。複素数で書けば 行、行列で書けば の表。姿が違うだけで、言っていることは「 の回転を 回すれば の回転」です。
ここで話は 1843 年に飛びます。複素数をかけるだけで平面の回転が書けるのなら、空間の回転を書ける「3 つ組の数」もあるはずだ ── そう考えたウィリアム・ローワン・ハミルトンは、10 年以上その数を探し続けました。うまくいきません。積を定めようとすると必ずどこかが壊れる。
月 日、妻とダブリンの運河沿いを歩いていたとき、答えが来ました。3 つでは足りない。4 つ必要だった。 実数 1 つと、,, の 3 つ。
ハミルトンは興奮のあまり、通りかかったブルーム橋の石にこの式をナイフで刻みつけたと伝えられます(※諸説あり)。これが四元数です。第 5 章の小話で名前だけ出した、ケーリー・ハミルトンの定理の「ハミルトン」がこの人です。
四元数の積には、大きな特徴があります。 ですが 。順序を変えると符号が変わるのです。ハミルトンは、かけ算が交換できない数を人類で初めて手にしたことになります。第 2 章で に驚いたわたしたちは、 年後の 1858 年にケイリーが行列論を書くより前に、同じ壁が別の姿で現れていたことを知るわけです。
当時は「実用のない思いつき」とも言われた四元数ですが、いまは現役です。3 次元の回転をコンピュータで扱うとき、 の行列(数 個)やオイラー角( 個の角)ではなく、四元数(数 個)を使うのが標準になっています。オイラー角には、ある姿勢で自由度が 1 つ消えてしまうジンバルロックという弱点があり、姿勢が飛んでしまう。四元数ならこれが起きず、2 つの姿勢のあいだをなめらかにつなぐ計算も素直に書けます。ゲームのカメラ、ロボットアーム、人工衛星の姿勢制御 ── 空間の向きを扱うところには、だいたい四元数が入っています。
豆知識
ハミルトンは四元数に人生の後半を捧げ、「これで物理学が書き直される」と信じていました。実際に書き直されたのは、四元数からベクトルの内積と外積だけを取り出したベクトル解析のほうでした。ベクトル分野で習った内積と外積は、四元数の積を 2 つに割った残骸だとも言えます。四元数のほうは、100 年以上たってコンピュータグラフィックスの世界で復活しました。道具は、使い道が見つかる前に作られていることがあるのです。
※ここは発展ページです。高校の範囲では「回転は 、対称移動は 、 の符号で見分ける」が使えれば十分ですが、実践 j19 で示した「距離を保つ一次変換は回転と対称移動しかない」がどこまで一般化するのか、 や という記号が何を指すのか、そして第 6 章の小話で予告した「正方形を自分自身に重ねる つの動き」の正体が気になる人のために、少し厳密な形にまとめておきます。第 3 章の厳密定義(群と一般線型群 )、第 5 章の厳密定義(対角和の不変性)、第 6 章の厳密定義(線形写像と表現行列)を前提にします。
本文では、変換を「どう動かすか」で分類しました。回して、裏返して、伸ばして。しかし大学では逆の順番で考えます。保たれるものを先に決め、それを保つ変換を全部集めるのです。距離を保つと決めて集めたら回転と対称移動が出てきた、というのが j19 でした。この見方に道具を与えます。
まず、行列の行と列を入れかえる操作に名前をつけます。
行列 に対し、 成分が である 行列を の転置行列といい、 と書く。 次の場合は
である。すなわち、第 1 行が第 1 列に、第 2 行が第 2 列になる(左上から右下への対角線で折り返す)。
転置には次の性質がある。いずれも成分を書けば確かめられる。
積については順序が入れかわる点に注意が必要です。
第 3 章で見た と同じ形です。 次で確かめると、 の 成分は なので、 の 成分は 。いっぽう の 成分は で、同じものです。
転置を用意したのは、内積が行列の積で書けるようになるからです。列ベクトル に対し
(左辺は内積、右辺は 行列と 行列の積で、 行列すなわち数)。これで「内積を保つ」という条件を行列の等式に翻訳できます。
次正方行列 が
をみたすとき、 を直交行列という。このとき より であり、とくに は正則で である(したがって も成り立つ)。
逆行列が転置で求まる、というのがこの定義のうまみです。回転の行列で確かめると
で、公式2 の が「転置すること」と同じだったと分かります。対称移動の は (対称行列)なので、定義2 は 、つまり j14 そのものです。
次正方行列 について、次の 4 つは同値である。
証明 : の第 列を とすると、 の 成分は である。これが の 成分、すなわち のとき 、 のとき に等しいことが 2 の主張である。
:
: とおけば で、長さは 以上だから である。
:内積は長さだけから復元できる。実際、 より
右辺の 3 つの長さはいずれも で保たれる( という線形性を使う)ので、左辺も保たれる。
:3 で , とおくと、左辺は 、右辺は である。これは 2 の主張、したがって 1 と同値である。(証明終)
4 だけを仮定して 3 が出るところが、この定理の要所です。長さを測る道具しか持っていないのに、角度まで保たれることが従う。j19 で ,, の 3 本だけを調べれば済んだのは、この の計算を で手作業でやっていたことになります。
なお「直交行列」という名前は、列が互いに直交することから来ています。長さも でなければならないので、名前としては「正規直交行列」のほうが正確なのですが、慣習で直交行列と呼びます。
次の直交行列全体を と書き、直交群という。そのうち をみたすもの全体を と書き、特殊直交群(または回転群)という。
が群(第 3 章 定義2)であることを確かめておきます。積について閉じているのは から。結合法則は行列の積から。単位元は ()。逆元は で、これも直交行列です()。よって は の部分群です。 は、さらに から閉じています。
のときは、要素をすべて書き下せます。
とすると、ある が存在して
のいずれかである。すなわち、 の要素は原点まわりの回転を表す行列に限り、 の要素は原点を通る直線( 軸とのなす角が である直線)に関する対称移動を表す行列に限る。
証明 定理1 の 2 より、第 1 列 は をみたすので、, となる が存在する。第 2 列は長さ で第 1 列と直交するから、 または のいずれかである(平面上で与えられたベクトルに垂直な単位ベクトルは 本しかない)。前者が 、後者が の場合で、それぞれ公式1、公式3 の形である。(証明終)
これは j19 の言い直しですが、「距離を保つ」という条件を という等式に置きかえたおかげで、証明が列の正規直交性だけの話になりました。
の構造も完全に分かります。
写像 , は全射な群準同型()であり、 となるのは が の整数倍のときに限る。したがって
であり、 は可換群である。いっぽう は可換ではない。
証明 は公式2 そのもの。全射性は定理2 の の場合から。 は かつ と同値で、 に限る。 との同型は、第 3 章 定理4 の対応 を の部分に制限したものである。可換性は から。 が可換でないことは、j18 の と が のとき異なることから分かる。(証明終)
が円周そのものだという結論は、小話 kb3 で「 は 回転」と言ったことの正式な形です。回転の全体は、 という 1 つの数でなめらかに並んでいて、 で輪になって閉じている。群でありながら、同時に図形(円)でもある。こうした対象をリー群といい、現代の幾何と物理の共通言語になっています。
全体は、 と「 に対称移動 1 つをかけたもの」の 2 つに分かれます。 が の組と の組で、行き来できません。小話 kb2 で「 から へは連続的に渡れない溝がある」と書いたのは、 がつながった 2 つのかたまりからできている、という事実です。
第 6 章の小話 kb1 で、正方形を自分自身にぴったり重ねる動きが つあると書きました。回収します。
原点を中心とする正 角形を自分自身に重ねる の要素全体を と書き、二面体群という。
は の部分群であり、 とおくと
で、要素の個数(位数)は である。
証明 正 角形の頂点の 1 つを とする。 の要素は頂点を頂点に移すので、 の像は 通り。 の像を決めると、隣の頂点の像は の像の両隣の 通りのいずれかで、その 2 つを決めれば残りの頂点の像も決まる(多角形の頂点は順につながっているから)。よって要素は多くとも 個である。いっぽう上に挙げた 個の変換はどれも正 角形を自分自身に移し、 の値と回転角の違いにより互いに異なる。よって位数はちょうど である。(証明終)
、つまり正方形の場合を書き下します。頂点を に取ると、鏡になる直線は 軸・ 軸・ 本の対角線です。
| 動き | 行列 | |
|---|---|---|
| 何もしない | ||
| 回転 | ||
| 回転 | ||
| 回転 | ||
| 軸で裏返す | ||
| 軸で裏返す | ||
| 直線 で裏返す | ||
| 直線 で裏返す |
これが の 個で、 の魔方陣が「回転と裏返しを除いてただ 1 つ」だったときの 通りにあたります。成分がすべて と であることに注目してください。整数の格子(碁盤の目)を自分自身に移す直交行列は、この 個で尽くされています。小話 kb1 の結晶学的制限定理は、この事実を一般の格子に広げたものです。平面の繰り返し模様を、格子の形ごと分類し尽くすと 種類になり、壁紙群と呼ばれます。銭湯のタイルから正倉院の文様まで、平面を埋める模様はこの 種類のどれかです。
次元の には、オイラーが示した驚くべき事実があります。 次元の回転をどれだけ組み合わせても、結果はある 1 本の軸まわりのただ 1 回の回転になる。 次元の に対応する事実ですが、 は可換でないので、軸の向きを求める計算は簡単ではありません。この軸を取り出す公式(ロドリゲスの回転公式)や、単位四元数の集まりが を 対 で覆うこと(同じ回転が の 通りの四元数で表される)は、線形代数と群論の入り口の話題です。小話 kb3 で触れた四元数は、ここで正式な居場所を得ます。
もう 1 つの広げ方は、原点を動かしてよいことにする方向です。平面の距離を保つ変換全体(等長変換群 )を考えると、要素は平行移動・回転・鏡映・すべり鏡映の 種類に分類されます。第 6 章の小話で「平行移動は一次変換ではないが、同次座標を使えば 行列で書ける」と述べたのは、 を行列の群として実現する手つきでした。
本文に戻る道も残っています。第 8 章では変換を続けて行うこと(合成)が行列の積に対応することを一般に扱い、j18 で「 回の対称移動が回転になる」と計算だけで示したことに、 が回転と鏡映の組み合わせで書ける理由という意味を与えます。第 9 章では の絶対値が面積の倍率であることを示し、直交行列の が「面積も形も変えない」ことの表現だったと分かります。
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