問1
連立方程式 を の形に表しなさい。
目次 / 行列と一次変換 / 旧数学C(課程外)
—— 2 本の式を 1 本にまとめ、行列式ひとつで解の個数を見分ける ——
中学から解いてきた連立一次方程式が、行列の積を使うと $A\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} p \\ q \end{pmatrix}$ という 1 本の式になります。こう書いてしまえば、$\Delta \neq 0$ のときは $A^{-1}$ をかけるだけで解が出ます。おもしろいのは $\Delta = 0$ のときで、解が 1 つも無いか、無数にあるかのどちらかしか起こりません。その分かれ目が、図形と方程式で学んだ 2 直線の位置関係とぴたりと重なります。ベクトルの章で名前だけ予告してあった**クラメルの公式**も、ここで正体を現します。
中学のころから、連立一次方程式は加減法か代入法で解いてきました。 を消して を出し、それを戻してもう一方を出す。確実ですが、式が 2 本あるかぎり手順も 2 段構えになります。
ところが第 2 章で覚えた積の定義を使うと、2 本の式は 1 本になります。行列 に列ベクトル を右からかけると
でした。左の行と右の列の内積、つまり「左は横、右は縦」です。出てきた列ベクトルの上下は、連立方程式の左辺そのものになっています。
左の を、この連立方程式の係数行列という。
, とおけば、連立方程式は という 1 本の式になる。
書き直しただけで、情報は 1 つも増えていません。2 枚に分かれていた伝票を、1 枚の帳票に書き写したようなものです。中身は同じでも、帳票の形にそろえたとたん「まとめて集計する」「そのまま次の処理に渡す」ができるようになる。行列表示も同じで、 という形にしてしまえば、第 3 章で身につけた をかける技がそのまま使えます。
係数行列を作るときは、縦の並びをそろえるのがこつです。 の係数が第 1 列、 の係数が第 2 列。 の項が無い式は係数 を、 のような式は を、符号ごと書き込みます。
連立一次方程式は、係数だけを取り出して行列にすれば という 1 本の式に書けるということです。
(1) 連立方程式 を の形に表しなさい。
(2) 連立方程式 を の形に表しなさい。
(3) を連立方程式の形に戻しなさい。
【解答】
(1) 係数をそのまま拾います。
(2) 第 1 式は が右辺にいるので、先に の形へ整えます。 です。 の係数は で、符号ごと第 2 列に入れます。
(3) 積を計算して成分を比べるだけです。
第 2 行に が現れないのは、係数行列の 成分が だからです。ちなみにこの形なら がすぐ出て、 と決まります。成分に が多い行列ほど連立は解きやすい、という感覚は、この章の終わりでもう一度出てきます。
と書けたなら、あとは第 3 章 公式6 の通りです。 が正則なら、左から をかけて 。
のとき、連立方程式 の解はただ 1 組に決まり
で与えられる。
「ただ 1 組」には 2 つの主張が含まれています。解がある(存在)ことと、それ以外に無い(一意性)ことです。どちらも逆行列から出ます。 を実際に代入すれば となって解であることが確かめられ、これが存在。逆に が解なら の両辺に左から をかけて しかあり得ず、これが一意性です。第 3 章 公式7 の消去法則が、そのまま効いています。
ここで大事なのは、定数項 , を見ていないことです。 は係数行列だけで決まる量なので、右辺が何であろうと、 でありさえすれば解はきっちり 1 組。右辺を取りかえれば解の値は変わりますが、「1 組ある」という事実は動きません。
係数行列の行列式が でなければ、右辺が何であっても解はただ 1 組に決まるということです。
連立方程式 を、係数行列の逆行列を使って解きなさい。
【解答】
例題1 (1) より です。行列式は
なので は正則で、解はただ 1 組に決まります。
両辺に左から をかけます。
よって です。もとの式に入れると , で、たしかに合っています。
加減法なら第 1 式を 2 倍して引いて…と進むところを、逆行列を作ってかけるだけで済みました。ただし を作る手間は残っているので、1 回きりならどちらが速いとも言えません。この書き方の値打ちは、同じ係数行列で右辺だけ違う連立を何度も解くときにはっきり出ます。 を 1 度作っておけば、あとは新しい右辺にかけるだけだからです。
公式2 の右辺を、成分で書き下しておきましょう。
つまり , です。この分子をよく見ると、どちらも行列式の形をしています。 は の行列式、 は の行列式です。
前者は係数行列の第 1 列を定数項に、後者は第 2 列を定数項に差しかえたものになっています。
のとき、 の解は
ただし
は係数行列の第 1 列を、 は第 2 列を、定数項の列 に取りかえた行列式である。
ここで という縦棒の記法を初めて使いました。行列式を表すときだけに使う書き方で、 の意味です。行列そのものを表す丸かっこ とは別物なので、混ぜて書かないようにします。なお第 3 章で断ったとおり、行列 の行列式を と書くのは絶対値と紛らわしいため、この教材では使いません。使うのは成分を並べたこの縦棒の形だけです。
覚え方は分母が共通の分数です。分母はいつも 。分子は、求めたい文字の列を答えの列に差しかえるだけ。 を求めたいなら の係数が入っていた第 1 列を、 なら第 2 列を差しかえます。文字が 3 つ以上になっても、この形はそのまま通用します。
実はこの式、ベクトルの第 2 章の厳密定義で一度予告されていました。, が 1 次独立のとき の係数 , を求める公式として現れ、「クラメルの公式の 2 行 2 列の場合」と書いてありました。あれがこれです。 を成分で書けば、未知数 , の連立一次方程式にほかならないからです。
クラメルの公式は、分母を に固定し、分子では求めたい文字の列を定数項の列に差しかえる、という形で解を書き下したものだということです。
次の連立方程式を、クラメルの公式を使って解きなさい。
(1) (2)
【解答】
(1) まず分母を出します。
第 1 列を定数項の列 に差しかえて
第 2 列を差しかえて
よって ,、すなわち です。
(2) 定数項が文字でも手順は変わりません。
よって です。
検算しておきます。、。どちらも合いました。, が文字のまま解けるのは、 が でないおかげです。
ここからがこの章の本題です。 なら が存在しないので、公式2 も公式3 も使えません。では解はどうなるのか。
という式は、, の少なくとも一方が でなければ、座標平面の直線を表しました(図形と方程式 第 2 章)。連立方程式の解とは、2 本の直線の共有点の座標にほかなりません。
そして図形と方程式 第 3 章の厳密定義で、2 直線 , が平行(一致も含む)である条件は
だと示してありました。この左辺こそ係数行列の行列式 です。つまり とは「2 直線が平行」ということ。平行な 2 直線の共有点は、1 つも無いか、**直線まるごと(無数)**かのどちらかです。
のとき、連立方程式 の解は次のどちらかである。
すなわち のとき、解がちょうど 1 組だけ、ということは起こらない。
判定のしかたは、一方の式をもう一方の式に重ねてみるだけです。 なら係数の比はそろっているので、その比で定数項もそろうかを見ます。そろえば同じ式なので解は無数、そろわなければ「同じ左辺なのに右辺が違う」という矛盾なので解なしです。
「ちょうど 1 組だけ」が起こらないのには、理屈があります。解が 2 つ見つかったとしましょう。, がともに解なら で、その差をとると 。この を何倍かして に足したものも、また解になります。1 つでも「ずれ」が見つかれば、そこから無限に解が作れてしまうのです。この仕組みは、この章の最後の節でもう一度きちんと扱います。
のときは 2 直線が平行なので、解は無数にあるか 1 つも無いかのどちらかで、その分かれ目は定数項までそろうかどうかだということです。
次の連立方程式を解きなさい。
(1) (2)
【解答】
(1) 行列式を調べます。
そこで定数項まで見ます。第 1 式を 2 倍すると となり、第 2 式の右辺 と食い違います。同じ が でも でもある、という , はありません。
よって です。2 直線 と は平行で、共有点を持ちません。
(2) こちらも行列式を調べます。
第 2 式を 倍すると で、第 1 式とまったく同じです。2 本は同じ直線を表しているので、その直線上のすべての点が解になります。
より 。( は任意の実数)とおくと
これが解の全体です。 なら 、 なら というように、いくらでも解が作れます。
解が無数にあるときは、このように媒介変数を 1 つ使って書き表すのが約束です。「 を満たす すべて」と言葉で答えても間違いではありませんが、媒介変数の形にしておくと、解の集まりが 1 本の直線であることがはっきりします。
入試で問われるのは、ほとんどがこの形です。係数に文字が含まれていると も文字の式になり、その文字の値によって解の様子が変わります。まず を計算し、 の場合と の場合に分ける。これが定石です。
を定数とする。連立方程式
の解の個数を、 の値によって分類しなさい。
【解答】
係数行列の行列式を計算します。
(i) かつ のとき。 なので、公式2 より解は に決まります。
(ii) のとき。 連立方程式は
同じ が でも でもあることはないので、 です。
(iii) のとき。 連立方程式は
第 2 式は第 1 式を 倍したもので、2 本は同じ直線です。よって解は にあります。 で とおけば より なので
と書けます。
になる が 2 つあり、一方は解なし、もう一方は解が無数。 を計算しただけでは決着がつかず、 になる値を 1 つずつもとの式に戻して確かめる必要があるわけです。ここを省くと答えを取り違えます。
最後に、右辺が という特別な連立方程式を見ます。
これを同次連立一次方程式(または斉次)といいます。行列で書けば です。
この形には、はじめから解が 1 つ用意されています。 です。代入すれば当たり前に成り立ちます。あまりに当たり前なので、これを自明な解と呼びます。問題になるのは、それ以外の解があるかどうかです。
同次連立一次方程式 について
のとき、解の全体は原点を通る 1 本の直線(または なら平面全体)になる。
証明は 1 行ずつです。 なら公式2 が使えて 、つまり自明な解しかありません。逆に なら、2 本の式はどちらも原点を通る同じ直線(か、片方が という無意味な式)になるので、その直線上の点がすべて解になり、原点以外の解があります。
いつも解を持っている、というのが同次形の特徴です。 でも「解なし」にはなりません。定数項がそろって なのですから、比例の条件は自動的に満たされていて、例題4 (1) のような食い違いが起こりようがないのです。
右辺がすべて の連立方程式は必ず を解にもち、それ以外の解があるかどうかは かどうかで決まるということです。
を定数とする。連立方程式
が 以外の解をもつような の値を求め、そのときの解をすべて求めなさい。
【解答】
公式5 より、求める条件は です。
より です。
のとき。 連立方程式は となり、2 本とも です。 とおくと
のとき。 連立方程式は となり、2 本とも です。 とおくと
どちらの場合も、解の全体は原点を通る 1 本の直線でした。 とすれば自明な解 に戻るので、自明な解もこの式にちゃんと含まれています。
なお を「 の 2 つの列が 1 次独立でない」と読むこともできます(第 3 章 厳密定義 定理2)。この見方については、厳密定義のページで改めて触れます。
締めくくりに、ふつうの文章題を行列表示で解いてみます。手順を型にはめられるのが、この書き方のありがたいところです。
濃度 の食塩水と濃度 の食塩水を混ぜて、濃度 の食塩水を g 作りたい。それぞれ何 g ずつ混ぜればよいかを、連立方程式を行列で表して求めなさい。
【解答】
の食塩水を g、 の食塩水を g 混ぜるとします。
全体の重さについて 。食塩の重さについて 。小数を避けるため第 2 式を 倍して とします。
行列式は
なので解はただ 1 組です。クラメルの公式を使います。
よって の食塩水を g、 の食塩水を g 混ぜればよいことがわかります。
確かめます。食塩は g。全体 g に対して で、たしかに です。
を確かめる一手間には意味があります。もし作りたい濃度が と の外側、たとえば だったら、式は矛盾して解が負になります。 の計算は「そもそも解けるか」を式の側から点検する手続きでもあるのです。
ここまでで、2 元の連立一次方程式は行列式ひとつで完全に分類できました。次の章では、行列そのものが満たす方程式を扱います。どんな 2 次の正方行列 も という関係を満たす、という驚くべき定理(ケーリー・ハミルトンの定理)です。この式のおかげで を と の組み合わせに書き直せるようになり、 でも でも計算できるようになります。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
連立方程式 を の形に表しなさい。
問2
k01 の連立方程式について、係数行列の行列式 を求め、解がただ 1 組に決まるかどうかを確かめなさい。
。 なので
問3
k01 の連立方程式の解を、係数行列の逆行列を使って求めなさい。
( を左からかける)
問4
連立方程式 の解を、クラメルの公式を使って求めなさい。
,, より
問5
を定数とする。連立方程式 が 以外の解をもつような の値を求めなさい。
より
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
次の 2 つの連立方程式 (1) 、(2) を、それぞれ の形に表しなさい。
(1) (2)
(1) すでに の形に整っているので、係数をそのまま拾います。 の係数は符号ごと第 2 列に入れるので です。
(2) 先に形を整えます。第 1 式は 、第 2 式は です。
整える前に係数を拾うと、第 2 式から のような行を作ってしまいます。まず の形にそろえるのが先です。
問2 ★
次の 2 つの連立方程式 (1) 、(2) の解を、係数行列の逆行列を使ってそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) の行列式は なので、 です。
よって 。検算すると , です。
(2) で、。
よって です。どちらも なので分数が出ず、逆行列を作る手間が軽くなっています。
問3 ★
次の 2 つの連立方程式 (1) 、(2) の解を、クラメルの公式を使ってそれぞれ求めなさい。
(1) (2)
分母は共通の 、分子は求めたい文字の列を定数項の列に差しかえた行列式です。
(1)
よって 。検算は , です。
(2) 負の数が入るので、符号をていねいに扱います。
よって です。 が負のときに分母の符号を忘れると答えが逆符号になります。最後に と入れて確かめるのが安全です。
問4 ★
3 つの連立方程式 (1) 、(2) 、(3) のうち、解がただ 1 組に決まるものをすべて求めなさい。
のみ
解がただ 1 組に決まるのは のときです。定数項は見る必要がありません。
(1) なので、ただ 1 組に決まります。
(2) なので、ただ 1 組ではありません。(第 1 式を 倍すると で、第 2 式の と食い違うので、実際は解なしです。)
(3) なので、ただ 1 組ではありません。(同次形なので は解です。 ですから、それ以外の解も無数にあります。)
よって答えは です。
(2) と (3) はどちらも ですが、片方は解なし、もう片方は解が無数。 だけでは「ただ 1 組ではない」ことまでしか言えない、という例になっています。
問5 ★
次の 2 つの連立方程式 (1) 、(2) の解をそれぞれ求めなさい。解が無数にあるときは、媒介変数 を使って表しなさい。
(1) 解なし (2) ( は任意の実数)
(1) なので、定数項まで見ます。
第 1 式を 倍すると となり、第 2 式の右辺 と食い違います。同じ が でも でもあることはないので です。
(2) 。第 1 式は第 2 式の 倍そのもので、2 本は同じ直線を表します。よって を満たす点すべてが解です。
とおくと より 、すなわち です。
とおいて と書いても正解ですが、 のように係数を先に見て置きかえると分数を避けられます。 で 、 で 。どちらも代入すると を満たします。
問6 ★
を定数とする。連立方程式 が 以外の解をもつような の値をすべて求めなさい。
同次形が自明でない解をもつ条件は です(公式5)。
より です。
念のため確かめます。 のとき連立方程式は となり、2 本とも 。たしかに のような解があります。
のときは で、2 本とも 。 が解です。
同次形では「解なし」が起こらないので、 を出したらそれで条件は完結します。非同次形(例題5)のように の値を 1 つずつ戻して確かめる必要はありません。
問7 ★
, を定数とする。2 直線 , が (1) 1 点で交わる、(2) 平行で共有点をもたない、(3) 一致する、という 3 つの場合について、それぞれの , の条件を求めなさい。
(1) (2) かつ (3) かつ
係数行列の行列式は
(1) 1 点で交わる、すなわち解がただ 1 組に決まる条件は 、つまり です。このとき はどんな値でもかまいません。
(2)(3) のとき第 2 式は です。第 1 式を 倍すると なので、
よって (2) は 、(3) は です。
は「平行(一致を含む)」までしか言いません。一致するかどうかは定数項まで見る、というのがこの章の要点です。
問8 ★
ある美術館の入館料は、大人 3 人と子ども 4 人で 円、大人 2 人と子ども 3 人で 円である。大人 1 人と子ども 1 人の入館料を、連立方程式を行列で表して求めなさい。
大人 円、子ども 円
大人 1 人を 円、子ども 1 人を 円とすると
行列式は なので、解はただ 1 組です。クラメルの公式を使います。
なので ,。よって大人 円、子ども 円です。
検算します。、。合っています。
文章題では、 を確かめるより先に「大人のほうが高い」「料金は正」といった答えの見当をつけておくと、計算違いに気づきやすくなります。
問9 ★★
を定数とする。連立方程式
の解を、 の値によって分類しなさい。解が無数にあるときは、媒介変数 を使って表しなさい。
かつ のときただ 1 組、 のとき解なし、 のとき ( は任意の実数)
まず行列式を計算します。
(i) かつ のとき。 なので、解は に決まります。
(ii) のとき。 連立方程式は
左辺が同じで右辺が違うので です。
(iii) のとき。 連立方程式は
2 本は同じ式なので解は無数にあります。 とおくと なので
になる値が 2 つあり、一方は解なし、他方は無数。 の計算だけで止めず、 になる を 1 つずつもとの式に戻すことが決め手になります。
問10 ★★
, を定数とする。連立方程式 の解が であるとき、, の値を求めなさい。また、このとき解がただ 1 組であることを確かめなさい。
。 なので解はただ 1 組
が解なのですから、両方の式に代入して成り立ちます。
第 2 式に代入すると
第 1 式に代入すると
よって です。
このときの連立方程式は で、行列式は
なので、解は です。つまり 以外に解はありません。
未知の定数が 2 つでも、 だけを含む式(第 2 式)から先に手をつければ連立を解く必要がありません。式を見て文字が少ないほうから攻めるのが早道です。もし になっていたら、 のほかにも解が無数にあったことになります。確かめる一手間には意味があるわけです。
問11 ★★
を , を満たす定数とする。連立方程式 の解を、クラメルの公式を使って求めなさい。
行列式は
という条件は、まさに を保証するためのものです。
よって
検算しておきます。
どちらも合いました。逆行列を作って計算しても同じ答えになりますが、 をくくり出したまま行列の積を計算する手間があります。文字が入るときはクラメルの公式のほうが、分母を 1 度書くだけで済むので見通しがよくなります。
問12 ★★
を定数とする。連立方程式 が 以外の解をもつような の値を求め、そのときの解をすべて求めなさい。
のとき 、 のとき ( は任意の実数)
条件は です。
より です。
のとき。 連立方程式は
2 本とも に帰着します。 とおくと
のとき。 連立方程式は
2 本とも です。分数を避けるため とおくと より なので
どちらの場合も、解の全体は原点を通る 1 本の直線でした。 とすれば自明な解 になるので、この式は自明な解も含んでいます。
を確かめたら、必ず 2 本の式が同じものに帰着します。もし帰着しなかったら、それは計算間違いのしるしです。
問13 ★★
を定数とする。3 直線 ,, が 1 点で交わるような の値を求めなさい。
3 本のうち 2 本の交点を求め、それが残りの 1 本の上にあればよい、と考えます。まず初めの 2 本を連立させます。
なので交点はただ 1 つに決まります。クラメルの公式で求めます。
交点は です。これが第 3 の直線 の上にある条件を書きます。
よって です。
確かめます。 のとき第 3 の直線は で、。たしかに を通ります。
「3 本の直線が 1 点で交わる」は、式が 3 本・未知数が 2 個の連立方程式が解をもつ条件にほかなりません。式が未知数より多いときは、ふつうは解がありません。解をもつように定数を調整するのが、この種の問題です。厳密定義のページで述べるルーシェ・カペリの定理が、その一般的な言い方になります。
問14 ★★
とする。
(1) 連立方程式 と をそれぞれ解きなさい。
(2) (1) の 2 つの連立方程式が、1 つの行列の方程式 をまとめて解くことで得られることを示しなさい。
(1) 順に , (2) の各列が (1) の解になっている
(1) なので です。
1 つめは
2 つめは
よって , です。
(2) を解きます。左から をかけて
第 1 列 が 1 つめの解、第 2 列 が 2 つめの解です。
理由は積の定義にあります。 の第 列は、 と の第 列の積になっています(第 2 章 j06 で、列ベクトルを横に並べれば 2 点の像を一度に出せると見たのと同じ仕組みです)。ですから右辺の列を並べておけば、対応する解の列が並んで出てきます。
同じ係数行列で右辺だけ違う連立を何本も解くなら、右辺を横に並べて一度に片づけるのが得です。この考えを 、つまり に対して使うと、逆行列そのものが求まります(j16)。
問15 ★★
連立方程式 が異なる 2 組の解をもつとき、 であることを示しなさい。さらに、このとき解が無数にあることを示しなさい。
背理法(または対偶)で を示し、 を使って無数の解を作る
前半。 がともに解であるとします。 と仮定すると は正則なので が存在し、
の両辺に左から をかけて 。これは に反します。よって です。
(第 3 章 公式7 の消去法則が使えるのは が正則なときだけ、という話がそのまま効いています。)
後半。 とおくと で、
です。ここで任意の実数 に対して を考えると
となり、これも解です。 なので が異なれば も異なります。 は実数全体を動けるので、解は無数にあります。
使ったのは と という 2 つの性質(線型性)だけです。「解が 2 つあれば無数にある」、言いかえれば解の個数は 0 個・1 個・無数の 3 通りしかない。この事実の正体が、いまの計算です。
問16 ★★
の逆行列を、 を 2 つの連立方程式として解くことで求めなさい。
とおきます。 の第 1 列を比べると
第 2 列を比べると
どちらも係数行列は で、右辺だけが違います。 なので、それぞれクラメルの公式で解けます。
第 1 列について
第 2 列について
( なので、分子がそのまま答えになっています。)よって
第 3 章 公式2 で として作っても同じ行列が出ます。
注目したいのは、逆行列を求めることが同じ係数行列で右辺が , の連立を解くことと同じだった点です。連立の解法と逆行列の計算が一本につながる、というのはこのことで、大学で学ぶ掃き出し法はこの手続きを機械的に実行するものです。厳密定義のページで実際の手順を見ます。
問17 ★★★
とする。「どのような実数 , に対しても連立方程式 の解がただ 1 組存在する」ことと が同値であることを示しなさい。
は逆行列で、逆向きは対偶( のとき解が 1 組でない , を作る)で示す
() とする。 は正則で が存在します。 とおくと
なので解が存在します。また が解なら両辺に左から をかけて となり、解は 1 組だけです。, は任意でよいので、主張が成り立ちます。
() 対偶を示す。 のとき、解がただ 1 組にならない , が存在することを示します。
(i) のとき。 とすると、左辺は , によらず なので解はありません。
(ii) のとき。 、すなわち同次形を考えます。 なので、 の成分のどれかは ではありません。
の場合、 とおくと で
(最後の等号で を使いました。) の場合は で、 とおけば同じように です。
いずれの場合も が同次形の解なので、 と という異なる 2 つの解が存在します。よって「ただ 1 組」ではありません。
以上より対偶が示され、同値性が従います。
「どのような , に対しても」という条件が効いているのが (ii) です。 でも、, をうまく選べば解をもつことはあります(例題4 (2))。しかし を選べば必ず解が無数になってしまう。だから「すべての , で 1 組」という強い条件は を強制するのです。
問18 ★★★
が かつ を満たすとき、同次連立方程式 の解の全体は原点を通る 1 本の直線であることを示しなさい。
2 本の式の一方が他方の実数倍になることを示し、解集合が 1 本の直線 に一致することを導く
なので、 と の少なくとも一方は ではありません。式の順番を入れかえても解集合は変わらないので、 として示せば十分です。
第 2 式が第 1 式の実数倍であることを示します。
のとき。 より です。 とおくと
のとき。 このとき で、 より です。 とおくと
どちらの場合も となる実数 がとれました。
解集合を決めます。 第 2 式 は と書けるので、第 1 式 が成り立てば自動的に成り立ちます。よって
なので は直線を表し、 を満たすので原点を通ります。
以上より、解の全体は原点を通る 1 本の直線です。
と が一方の実数倍になる、というのはベクトルの言葉でいえば「 の 2 つの行が平行(1 次従属)」ということです。第 3 章 定理2 では列について同じことを述べました。 が行から見ても列から見ても成り立つのは偶然ではなく、 という性質の現れです。
問19 ★★★
連立方程式 について、次の問いに答えなさい。
(1) 解をすべて求めなさい。
(2) (1) で求めた解が、「この連立方程式の解 1 組」と「同次連立方程式 の解の全体」の和の形に書けることを示しなさい。
(1) ( は任意の実数) (2) と分かれる
(1) 行列式は です。第 2 式は第 1 式の 倍そのものなので、2 本は同じ直線 を表します。
とおくと 、すなわち より です。
(2) 同次連立方程式のほうを解きます。こちらも 2 本とも に帰着するので、 とおくと 。解の全体は
で、原点を通る 1 本の直線です。
一方 (1) の解は、 とすれば という 1 組の解を与えます。そこで (1) の解を書きかえると
たしかに「 という 1 組の解」+「同次形の解の全体 」の形になりました。
図でいえば、解の直線 は、同次形の解の直線 を だけ平行移動したものです。 のとき 2 直線が平行になる、という本文の話がここにも顔を出しています。
この「1 つの解 + 同次形の解の全体」という形は、数列の漸化式(数列 第 7 章で を解くとき、 の解が特殊解の役目をしました)や、大学で学ぶ微分方程式でも、まったく同じ姿で現れます。共通しているのは、, という線型性だけです。
問20 ★★★
,,,,, を整数とし、 とする。
(1) または のとき、連立方程式 の解 , はともに整数であることを示しなさい。
(2) で、解が整数にならない例を 1 つ示しなさい。
(1) クラメルの公式の分子が整数で、分母が であることから従う (2) 例:(解は )
(1) なので、クラメルの公式が使えます。
分子 と は、整数の積と差でできているので整数です。分母は または なので、, はその整数そのものか符号を変えたものであり、いずれにしても整数です。
よって , はともに整数です。
(2) とすると、係数と定数項はすべて整数で
です。第 2 式より 、これを第 1 式に入れて 。よって
となり、整数ではありません。
ポイントは、係数がすべて整数でも、解が整数になるとは限らないということです。分母の で割り切れるかどうかにかかっており、 ならどんな右辺に対しても必ず割り切れる。逆に のときは、割り切れない右辺が必ず作れます。
整数の分野で学んだ 1 次不定方程式 が整数解をもつ条件は「 が と の最大公約数で割り切れること」でした。いまの話は、その 2 本立て版にあたります。行列式が の整数行列はユニモジュラー行列と呼ばれ、逆行列もまた整数行列になるという性質から、格子(碁盤の目のような点の並び)を扱う場面で主役を務めます。
1940 年代の終わり、ベル研究所のリチャード・ハミングは週末になると、計算をリレー式の計算機に任せて帰宅していました。ところが月曜に出社すると、機械は途中のエラーで止まったまま、何も出していない。当時の機械は誤りを検出する仕組みは持っていたのですが、見つけたところで止まるだけだったのです。
「誤りがあると分かるのなら、どこが誤っているのかも分かるはずではないか」。そこから生まれたのが 1950 年のハミング符号でした。
考え方はこうです。送りたい 4 桁のデータに、3 桁の検査用の桁を足して 7 桁にします。この 7 桁の列を とし、あらかじめ決めておいた の行列 (検査行列といいます)との積を計算する。ただし数は と だけ、足し算は という約束(2 で割った余りの世界)で行います。
となるような 7 桁の列だけを、正しい符号として使うのです。これは未知数 7 個・式 3 本の同次連立一次方程式にほかなりません。解が無数にある(正確には 通りある)ことが、ここでは欠点ではなく利点になります。その 16 通りが、送りたい 4 桁のデータ 16 通りにちょうど対応するからです。
受け取った側は を計算します。 なら誤りなし。 でなければ誤りありですが、おもしろいのはここからで、 の列をうまく並べておくと、出てきた 3 桁の数がそのまま誤った桁の番号を 2 進法で表したものになります。 と出れば 3 桁目、 と出れば 5 桁目。場所さえ分かれば、 と しかないのですからひっくり返すだけで訂正できます。
豆知識
いま私たちが使っている通信や記録は、ほとんどがこの発想の延長線上にあります。QR コードは汚れて一部が読めなくても復元できますし、深宇宙探査機からの微弱な電波も、誤り訂正符号があるおかげで画像になります。行列との積が かどうかを見る、という単純な検査が、その土台にあります。
クラメルの公式に名を残すガブリエル・クラメルは、スイス・ジュネーヴの数学者です。公式が世に出たのは 1750 年、『代数曲線の解析入門』という本の付録でした。
ただし「最初に見つけた人」かというと、そこは少し怪しいところです。スコットランドのコリン・マクローリンが、遺著として 1748 年に出た『代数論』で同じ内容を扱っており、さらに 1729 年ごろには知っていたとも言われます(※諸説あり)。それでもクラメルの名が残ったのは、彼の書き方のほうが記号としてすっきりしていて、そのまま使えたからだと説明されています。数学では「誰が先か」より「誰の書き方が広まったか」で名前が決まることが、しばしばあります。
クラメルにはもう 1 つ、この章と深くつながる話があります。クラメルのパラドックスです。
平面上の 次曲線は、 個の点を指定すれば 1 つに定まる、と当時から知られていました。 なら 個です。ところが一方で、2 つの 3 次曲線は一般に 点で交わります。すると、その 9 点を通る 3 次曲線が 2 つある。9 点で 1 つに定まるはずなのに、2 つある——。
クラメルはこの矛盾をオイラーに手紙で相談しました。答えは、まさにこの章で扱った話です。曲線の係数を未知数とする連立一次方程式を立てると、9 点がこういう特別な配置のときには にあたる量が になってしまい、「ただ 1 つに定まる」という前提が崩れる。解は無いか、無数にあるかのどちらかになるのです。この場合は無数にある側でした。
「 個の条件があれば 個の未知数が決まる」という素朴な感覚が、いつでも正しいわけではない。パラドックスに見えたものの正体は、 という一行だったわけです。
病院の CT スキャンは、体を切らずに断面を見る装置です。中でやっていることは、突きつめれば巨大な連立一次方程式を解くことです。
体の断面を細かいマス目に区切り、各マスの「X 線の通りにくさ」を未知数とします。X 線を 1 本通すと、その通り道にあるマスの通りにくさの合計が、出てきた X 線の弱まり方として測れます。つまり測定 1 回につき、未知数がずらりと並んだ一次方程式が 1 本得られる。角度を変えながら何万回も測れば、式が何万本たまります。あとは解くだけ——理屈の上では、それだけです。
理屈と現実の差が、しかし大変でした。断面を のマス目に区切れば未知数は約 26 万個です。この係数行列の逆行列を作ろうとすれば、成分の数は 26 万の 2 乗、およそ 700 億個。クラメルの公式にいたっては、 個の未知数に対して 程度の計算が必要になるので、 ですでに 回。手も足も出ません。
そこで実際に使われるのは、解を推測しては測定値と突き合わせて少しずつ直す、という反復法です。正確な解を一気に求めるのではなく、十分に近い解へじわじわ寄せていく。連立一次方程式の解き方には、この章で学んだ「公式で書き下す」道のほかに、こういう道もあるわけです。
豆知識
実用的な CT を作り上げたのはイギリスのゴッドフリー・ハウンズフィールドで、1971 年のことでした。1 枚の断面を撮るのに数時間、計算にはさらに日数がかかったといいます。彼が所属していたのは EMI という会社で、ビートルズのレコードで得た利益が研究を支えたとも語られています(※諸説あり)。ハウンズフィールドは、数学的な原理を先に発表していたアラン・コーマックとともに 1979 年のノーベル生理学・医学賞を受けました。
※ここは発展ページです。高校の範囲では「 ならただ 1 組、 なら解なしか無数」と使えれば十分ですが、未知数や式の本数が増えたときはどう言えばよいのか、なぜ解の個数が 0 個・1 個・無数の 3 通りしかないのか、連立を解く手続きと逆行列を求める手続きが同じものになるのはどういう意味かが気になる人のために、少し厳密な形にまとめておきます。
この章の本文では、未知数 2 個・式 2 本の連立一次方程式を、行列式 ひとつで完全に分類しました。ここでは未知数と式の本数を自由にしたうえで、同じことをどう述べるかを見ます。第 3 章の厳密定義で名前だけ出しておいた掃き出し法も、ここで正体を明かします。第 1 章の厳密定義で扱ったベクトル空間と部分空間を前提にします。
を 実行列、 を 列ベクトルとする。 列ベクトル を未知とする方程式
を、 個の未知数と 本の式からなる連立一次方程式という。 のとき同次、そうでないとき非同次であるという。
この方程式を満たす 全体の集合
を解集合という。 のとき、この方程式は解をもたないという。
行列の積が定義できるためには型がそろっていなければならず、 で、たしかに右辺の型と一致します。式の本数 が行の数、未知数の個数 が列の数です。 と は等しくなくてよいことに注意します。式が未知数より多いこと(測定をたくさんして未知数を絞る場面)も、少ないこと(条件が足りず解が定まらない場面)も、この形に収まります。
「解を求める」とは、正確には解集合 を決定することです。本文で見た 3 つの場合は、 が 1 点であるか、空集合であるか、直線であるかの違いでした。
まず本文の分類を、きちんとした形で述べておきます。
,, とする。
(1) ならば、解集合はただ 1 つの要素からなる。
(2) ならば、解集合は空集合であるか、無限集合であるかのいずれかである。
証明 (1) のとき は正則である(第 3 章 定理1 の系)。 とおけば であるから、これは解である。逆に が解であれば、 の両辺に左から をかけて を得る。ゆえに解は のみである。
(2) とし、解集合が空でないとして、 を 1 つの解とする。 より は正則でないから、第 3 章 定理2 により の 2 つの列は 1 次独立でない。したがって を満たす が存在する。実際、 ならば または のうち でないものをとればよく、 は から従う。 ならば とすればよい。
このとき、任意の実数 に対して
であるから も解である。 ゆえ、 が異なればこれらは異なる。よって解は無限に多い。(証明終)
(2) の証明が、本文で「1 つでもずれが見つかれば無限に解が作れる」と書いたことの中身です。ここで使ったのは と という 2 つの性質だけでした。この 2 つを線型性といい、連立一次方程式の理論はほとんどすべてここから出てきます。
未知数が 3 個以上になると、 に相当する量( 次の行列式)はあるものの、それを計算して場合分けする方針は現実的ではありません。かわりに使うのが、中学で習った加減法を機械化した手続きです。
連立一次方程式 に対し、次の 3 種類の操作を行基本変形という。
と を横に並べた 行列 を拡大係数行列といい、行基本変形はこの行列の行に対する操作として実行する。
行基本変形を行っても、連立一次方程式の解集合は変わらない。
証明 3 種類それぞれについて、変形前の解が変形後の解であり、かつ逆も成り立つことを示せばよい。
操作 1 は、第 式 を ()に取りかえるものである。前者が成り立てば後者も成り立ち、後者が成り立てば両辺を で割って前者が成り立つ。 がここで必要である。
操作 2 は、第 式に第 式()の 倍を加えるものである。 と がともに成り立てば も成り立つ。逆に、変形後の第 式と第 式(これは変形されていない)が成り立てば、前者から後者の 倍を引いて を得る。
操作 3 は式の並べ替えにすぎず、満たすべき条件の集まりは変わらない。(証明終)
操作 1 で を外せない理由は明らかです。 を許すと、式が に化けて条件が消えてしまい、解集合が広がってしまいます。
この変形を繰り返して、係数の部分をできるだけ単位行列に近づけていく手続きを掃き出し法(ガウス・ジョルダンの消去法)といいます。第 3 章の厳密定義で予告した「連立の解法と逆行列の計算が同じ手続きになる」という話は、こういうことです。 の逆行列を求めるには、 という方程式を解けばよいので、右辺に を置いた拡大係数行列を掃き出します。
順に、2 つの行を入れかえ、第 2 行から第 1 行の 2 倍を引き、第 2 行を 倍し、第 1 行から第 2 行の 2 倍を引きました。左側が になったとき、右側に現れているのが
です。 から公式で求めても同じ結果になります。2 次では公式のほうが速いのですが、 次では余因子の計算量が の勢いで増えるのに対し、掃き出し法は 程度で済みます。実際の計算がこちらを使うのは、そのためです。
掃き出しきったあとの形を見れば、解の様子が読み取れます。それを数値にしたのが階数です。
行列 に行基本変形(および必要なら列の入れかえ)を施して、各行の左端の でない成分が下の行へ進むほど右にずれた形(階段形)にしたとき、 でない成分をもつ行の個数を の階数といい、 と書く。
この値は変形のしかたによらず定まる。
行列に対して です。2 次の正方行列では、 が正則、 が かつ 、 が に対応します。本文の「」は、階数の言葉では「」です。
連立一次方程式 が解をもつための必要十分条件は
である。また解をもつとき、解集合は 個の媒介変数で表される。とくに ならば解はただ 1 つである。
証明は階段形の性質を詰める必要があるので、大学の線形代数にゆだねます。ここでは意味だけ確かめておきます。 とは、掃き出した結果、係数がすべて なのに右辺だけ でない行、つまり
という行が現れることです。これは何を代入しても成り立たないので、解はありません。本文の例題4 (1) で「 が でも でもある」と言った矛盾が、まさにこの行です。
媒介変数の個数 も、本文と合っています。, なら 個で解は 1 点。, なら 1 個で解は直線。例題4 (2) や例題5 (iii) で媒介変数 を 1 つ使ったのは、このためでした。
同次形には、第 1 章の厳密定義で扱った構造がそのまま現れます。
を 実行列とする。同次連立一次方程式 の解集合
は の部分空間である。その次元は である。
証明 より であるから である。
とすると であるから である。
, とすると であるから である。
よって は和と実数倍について閉じており、部分空間である。次元については定理3 による。(証明終)
この を の核(kernel)と呼びます。 のとき、部分空間は原点のみ・原点を通る直線・平面全体の 3 種類しかありません(第 1 章 定理5 の議論と同じです)。これが本文 公式5 の「解の全体は原点を通る 1 本の直線、または平面全体」に対応します。 なら で次元 、 なら次元 の直線、 なら次元 の平面全体です。
非同次形の解集合が部分空間にならないことも、すぐに分かります。 なら は解ではないので、 を含みません。ではどういう形なのか。答えは、部分空間を平行移動したものです。
が解をもち、 をその 1 つ(特殊解という)とする。このとき解集合 は
と表される。すなわち「非同次形の解の全体」は「1 つの解」+「同次形の解の全体」である。
証明 とすると であるから である。
逆に とすると であるから であり、 と書ける。
よって両者は一致する。(証明終)
例題5 (iii) の解 を、この形に読み直してみます。 です。 が特殊解、 が同次形 の解の全体(原点を通る直線)。非同次の解の直線は、同次の解の直線を だけ平行移動したものになっています。 のとき 2 直線が平行になる、という本文の話と、きれいに重なります。
「特殊解 1 つ + 同次形の解の全体」という形は、連立一次方程式だけのものではありません。数列の漸化式(数列 第 7 章の で、特殊解にあたるのが の解でした)でも、微分方程式でも、まったく同じ形が現れます。共通しているのは、扱っている操作が線型性 , を満たすことだけです。線型代数という分野の名前は、この性質に由来しています。
3 次以上の行列式、階段形の一意性、そして「 は行から見ても列から見ても同じ」という定理——このあたりが、大学の線形代数で最初に整備される内容です。次の第 5 章では、未知数のほうではなく行列そのものを主役にして、 が満たす 2 次方程式(ケーリー・ハミルトンの定理)を調べます。
この章の学習が終わったら
学習完了テストを受ける