第7章では空間のベクトルの計算を学びましたが、内積はまだ使っていませんでした。この章では、空間の内積を成分で計算する式を確かめ、2 つのベクトルのなす角や垂直を調べます。続いて、2 本のベクトルの両方に垂直なベクトルの求め方と、空間の三角形の面積を扱います。後半は四面体が舞台です。内積を使って辺の長さや垂直を調べ、平面に下ろした垂線の足を求め、最後に四面体の体積を「底面積 × 高さ ÷ 3」で計算します。
空間でも内積は同じ形
第3章では、平面のベクトルの内積を「なす角」から定義し、成分で計算する式を導きました。第7章で見たとおり、空間のベクトルでも和・差・実数倍の規則は平面と同じでした。内積も事情は同じで、定義も計算法則も平面のまま使え、成分の式に z 成分の項が 1 つ加わるだけです。
この章の前半では、その内積を使って空間の 2 本のベクトルのなす角や垂直を調べ、三角形の面積を求めます。後半では四面体を舞台に、垂線の足と体積を計算します。
空間の内積
0 でない 2 つのベクトル a,b の始点をそろえて a=OA,b=OB とすると、3 点 O,A,B を含む平面が少なくとも 1 つあります。その平面の中で ∠AOB を測ったものが、a と b のなす角 θ(0∘≦θ≦180∘)です。空間でも、2 本のベクトルだけに注目すれば、平面の話に戻るわけです。そこで内積の定義は第3章と同じ a⋅b=∣a∣∣b∣cosθ とします。
成分の式も、第3章と同じく余弦定理から導けます。a=(a1, a2, a3),b=(b1, b2, b3) として、三角形 OAB に余弦定理を使うと
AB2=OA2+OB2−2OA⋅OBcosθ=∣a∣2+∣b∣2−2a⋅b
となります。AB=(b1−a1, b2−a2, b3−a3) なので、両辺を成分で書くと
(b1−a1)2+(b2−a2)2+(b3−a3)2=(a12+a22+a32)+(b12+b22+b32)−2a⋅b
左辺を展開して整理すると、a⋅b=a1b1+a2b2+a3b3 が得られます。
計算法則が平面と同じなので、「大きさの問題は 2 乗して展開」という第3章の方針も、そのまま空間で使えます。
第3章では、2 点シュートと 3 点シュートの決めた本数から、バスケットボールの得点を内積で計算しました。フリースロー(1 点)を加えて、1 本あたりの点数を (1, 2, 3)、決めた本数を (4, 5, 2) とすれば、得点は 1×4+2×5+3×2=20 点です。種類が 1 つ増えても、「同じ種類どうしをかけて、全部足す」という手順は変わりません。
空間の内積は、定義も計算法則も平面と同じで、成分で計算するときは a1b1+a2b2+a3b3 と z 成分の積を 1 つ足せばよいということです。
例題1:内積となす角・垂直条件
(1) a=(2, 1, −1),b=(1, 2, 1) の内積となす角 θ を求めなさい。
(2) (1) の a,b について、a+tb と b が垂直になるように、実数 t の値を定めなさい。
(3) 3 点 A(1, 2, 3),B(2, 3, 3),C(1, 1, 4) について、∠BAC の大きさを求めなさい。
【解答】
(1) 公式1から
a⋅b=2⋅1+1⋅2+(−1)⋅1=3∣a∣=4+1+1=6,∣b∣=1+4+1=6 なので
cosθ=6⋅63=210∘≦θ≦180∘ から θ=60∘ です。
(2) (a+tb)⋅b=a⋅b+t∣b∣2=3+6t です。これが 0 になればよいので t=−21。
(3) ∠BAC は、A を始点とする AB と AC のなす角です。
AB=(1, 1, 0),AC=(0, −1, 1)cos∠BAC=2⋅21⋅0+1⋅(−1)+0⋅1=−21よって ∠BAC=120∘ です。
2 つのベクトルに垂直なベクトル
平面では、(a1, a2) に垂直なベクトルは (−a2, a1) の実数倍に決まりました(第3章)。空間では、1 本のベクトルに垂直な向きは無数にあります。a に垂直な向きは、a を軸にぐるりと 1 周するように広がっているからです。向きが 1 つに決まるのは、1次独立な 2 本 の両方に垂直という条件をつけたときです。
手順としては、2 本の式から 1 つの文字を消し、残った文字の比を出します。たとえば x を基準にして y,z を x で表し、n=x(⋯) の形にします。x=0 になる場合もあるので、係数の都合を見て基準の文字を選びましょう。求めた n が 2 本の両方と内積 0 になることを、最後に必ず確かめます。
ノートの表紙の上に、鉛筆をまっすぐ立てることを考えてみます。表紙の縦の辺と直角になるように傾けただけでは、鉛筆は横に倒れていてもかまいません。横の辺とも直角になるように合わせて、初めて鉛筆の向きが 1 つに決まります。ただし、表紙の上に立てるか、裏側に突き出すかの 2 通りは残ります。n と −n の 2 つがあるのはこのためです。
空間では 1 本に垂直な向きは無数にあり、1次独立な 2 本の両方と内積が 0 になるという 2 本の式を立てて、初めて向きが決まるということです。
例題2:2 つのベクトルに垂直な単位ベクトル
a=(1, 1, 0),b=(1, 2, 2) とします。
(1) a,b の両方に垂直な単位ベクトルを求めなさい。
(2) a,b の両方に垂直で、大きさが 6,z 成分が正であるベクトルを求めなさい。
【解答】
(1) 求めるベクトルを e=(x, y, z) とすると、e⋅a=0,e⋅b=0,∣e∣=1 から
x+y=0(i),x+2y+2z=0(ii),x2+y2+z2=1(iii)(i) から y=−x。(ii) に代入して x−2x+2z=0 なので z=2x。(iii) に代入すると
x2+x2+4x2=49x2=1⟹x=±32よって
(32, −32, 31),(−32, 32, −31)確かめると、(32, −32, 31)⋅(1, 1, 0)=0,(32, −32, 31)⋅(1, 2, 2)=32−4+2=0 です。
(2) (1) の単位ベクトルを 6 倍したもののうち、z 成分が正のものを選んで (4, −4, 2) です。
空間の三角形の面積
第3章 公式6で、三角形 OAB の面積を
S=21∣a∣2∣b∣2−(a⋅b)2
と表しました。この式は、S=21∣a∣∣b∣sinθ に sinθ=1−cos2θ を入れて導いたもので、大きさと内積しか使っていません。したがって、空間の三角形でもそのまま成り立ちます。
一方、第3章で紹介したもう 1 つの形 21∣a1b2−a2b1∣ は、成分が 2 つの平面専用です。空間でこれに当たる式は厳密定義ページで扱います。
使い方は、∣u∣2,∣v∣2,u⋅v の 3 つの数を先に計算して、式に入れるだけです。根号の中では 2 乗の計算が続くので、平方根をとるのは最後にします。
家の屋根に、三角形の板が 1 枚、斜めに張られているとします。板が地面に対してどれだけ傾いていても、板に塗るペンキの量は板そのものの広さで決まり、真上から見た影の広さでは決まりません。公式3は、2 本の辺の長さとそのあいだの角という、板そのものの寸法だけで広さを出す式です。
空間の三角形の面積は、2 辺のベクトルの大きさと内積だけで表す第3章の式がそのまま使え、座標軸の向きに左右されないということです。
例題3:空間の三角形の面積と高さ
3 点 A(0, 1, 2),B(1, 0, 4),C(2, 2, 3) があります。
(1) 三角形 ABC の面積 S を求めなさい。
(2) 点 A から直線 BC に下ろした垂線の長さを求めなさい。
【解答】
(1) AB=(1, −1, 2),AC=(2, 1, 1) なので
∣AB∣2=1+1+4=6,∣AC∣2=4+1+1=6,AB⋅AC=2−1+2=3公式3から
S=216⋅6−32=2127=233(cos∠BAC=63=21 なので ∠BAC=60∘ で、21⋅6⋅6⋅sin60∘ としても同じ値になります。)
(2) BC=(1, 2, −1) より BC=6。求める長さを h とすると S=21⋅BC⋅h なので
h=BC2S=633=23=232
四面体の計量
第5章では、三角形 OAB の長さや角が ∣a∣,∣b∣,a⋅b の 3 つの数で決まることを使いました。四面体 OABC では、辺が 6 本あるのに合わせて、基本の数も 6 つになります。
展開の公式は、(x+y+z)2 の展開と同じ形です。「2 乗の項が 3 つ、2 つずつかけた項が 3 つ(それぞれ 2 倍)」と覚えておきましょう。垂直の示し方の最後の形は、「a との内積が b と c で等しい」という読み方ができます。図形の性質 第7章で、正四面体の向かい合う辺が垂直であることを平面との垂直を使って示しましたが、ベクトルでは内積 1 本の計算になります。
組み立て家具の説明書には、部品の長さと、どの部品をどの角度でつなぐかが書いてあります。それさえわかれば、組み立てる前から、完成した棚の対角線の長さや、どこが直角になるかを計算で知ることができます。四面体の 6 つの数は、この説明書にあたります。
四面体 OABC の長さ・角・垂直は ∣a∣,∣b∣,∣c∣ と 3 つの内積で決まり、長さは 2 乗して展開、垂直は内積が 0 になることで調べればよいということです。
例題4:四面体の垂直と長さ
四面体 OABC で OA=3,OB=OC=2,∠AOB=∠AOC=60∘,∠BOC=90∘ とします。OA=a,OB=b,OC=c とします。
(1) a⋅b,b⋅c,c⋅a を求めなさい。
(2) OA⊥BC であることを示しなさい。
(3) 三角形 ABC の重心を G とするとき、線分 OG の長さを求めなさい。
【解答】
(1)
a⋅b=3⋅2cos60∘=3,b⋅c=2⋅2cos90∘=0,c⋅a=2⋅3cos60∘=3(2) BC=c−b なので
OA⋅BC=a⋅(c−b)=a⋅c−a⋅b=3−3=0OA=0,BC=0 なので OA⊥BC です。(証明終)
(3) OG=3a+b+c です。公式4の展開で
∣a+b+c∣2=9+4+4+2(3+0+3)=29よって OG=329 です。
直線と平面の垂直・平面への垂線
図形の性質 第7章で、「直線が平面上の交わる 2 直線に垂直ならば、その平面に垂直」という判定法を学びました。ベクトルで言いかえると、次のようになります。
平面 α 上の 1次独立な 2 本のベクトルを u,v とすると、平面 α 上のどのベクトル w も w=su+tv と表せます(第1章 公式6)。そこで n⋅u=0,n⋅v=0 ならば
n⋅w=sn⋅u+tn⋅v=0
となり、n は平面上のすべてのベクトルと垂直です。このとき、n は平面 α に垂直であるといい、n を平面 α の法線ベクトルと呼びます。第6章で直線の法線ベクトルを扱いましたが、空間では平面の法線ベクトルになります。公式2で求めたベクトルは、a,b を含む平面の法線ベクトルです。
四面体 OABC で、O を始点に OH=xa+yb+zc(x+y+z=1)とおいてもかまいません。平面上にある条件の立て方が違うだけで、2 本の内積の式を使う点は同じです。
最後の距離の式は、PX=PH+HX と PH⊥HX から、第5章の垂線の足のときと同じ三平方の関係として出てきます。
プールの深さを測るときは、水面から底へまっすぐ下に巻尺を下ろします。斜めに下ろすと、同じ底に届いても長い数字が出てしまいます。「まっすぐ下」とは、水面のどの向きとも直角という意味で、確かめるには、水面の縦と横の 2 つの向きに対して直角になっていれば十分です。
平面上の 1次独立な 2 本と垂直なら平面に垂直で、平面への垂線の足は「平面上にある」形でおいてから、その 2 本との内積を 0 にして求めればよいということです。
例題5:平面への垂線の足と四面体の体積
3 点 A(4, 0, 0),B(0, 4, 0),C(0, 0, 2) があります。原点 O から平面 ABC に下ろした垂線の足を H とします。
(1) 点 H の座標を求めなさい。
(2) 線分 OH の長さと、三角形 ABC の面積を求めなさい。
(3) (2) を使って四面体 OABC の体積を求め、31×(三角形 OAB の面積)×OC と一致することを示しなさい。
【解答】
(1) AB=(−4, 4, 0),AC=(−4, 0, 2) です。H は平面 ABC 上にあるので、AH=sAB+tAC とおくと
OH=OA+sAB+tAC=(4−4s−4t, 4s, 2t)OH⊥AB,OH⊥AC から
OH⋅AB=−4(4−4s−4t)+16s=32s+16t−16=0OH⋅AC=−4(4−4s−4t)+4t=16s+20t−16=0それぞれ 16 と 4 で割ると 2s+t=1,4s+5t=4。1 つ目から t=1−2s を 2 つ目に代入して −6s+5=4,s=61,t=32。よって OH=(4−32−38, 32, 34) で
H(32, 32, 34)(2)
OH=94+94+916=924=326∣AB∣2=32,∣AC∣2=20,AB⋅AC=16 なので、公式3から
△ABC=2132⋅20−162=21384=21⋅86=46(3) 三角形 ABC を底面とみると、高さは OH なので
V=31⋅46⋅326=316一方、三角形 OAB は ∠AOB=90∘ の直角三角形で面積は 21⋅4⋅4=8、OC は xy 平面に垂直で OC=2 なので、31⋅8⋅2=316 となり、一致します。(証明終)
四面体の体積
例題5の (3) では、底面をどこにとっても体積は同じになることを確かめました。四面体(三角錐)の体積は、中学校で学んだとおり
V=31×(底面積)×(高さ)
です。ベクトルで求めるときは、底面積を公式3で、高さを公式5の垂線の足で求めます。
手順 2 では、O が底面上の点なので、OH を a,b だけで表せます(第7章 公式6の「平面 OAB 上 ⇔ c の係数が 0」)。また、OH は平面 OAB 上のベクトルなので CH⊥OH となり、三平方の定理から ∣CH∣2=∣c∣2−∣OH∣2 と計算することもできます。
お茶のティーバッグには、三角錐の形をしたものがあります。平らな袋より中の空間が広く、茶葉が動きやすいといわれます。形が決まれば、中に入る体積は「底面の三角形の広さ」と「そこからてっぺんまでのまっすぐな高さ」だけで決まり、四面体をどちら向きに置いて測っても同じ値になります。
四面体の体積は、底面積を内積の面積公式で、高さを平面への垂線の足で求め、31× 底面積 × 高さで計算すればよいということです。
例題6:四面体の高さと体積
四面体 OABC で OA=OB=2,OC=3,∠AOB=∠BOC=∠COA=60∘ とします。OA=a,OB=b,OC=c とし、頂点 C から平面 OAB に下ろした垂線の足を H とします。
(1) OH を a,b で表しなさい。
(2) 線分 CH の長さを求めなさい。
(3) 四面体 OABC の体積 V を求めなさい。
【解答】
(1) まず 6 つの数を求めます。∣a∣=∣b∣=2,∣c∣=3 で
a⋅b=2⋅2⋅21=2,b⋅c=c⋅a=2⋅3⋅21=3H は平面 OAB 上にあるので OH=sa+tb とおくと、CH=sa+tb−c です。CH⊥a,CH⊥b から
CH⋅a=4s+2t−3=0,CH⋅b=2s+4t−3=02 式を引くと 2s−2t=0 で s=t。代入して 6s=3 より s=t=21。
OH=21a+21b辺 AB の中点を M とすると OM=21a+21b なので、H は M に重なっています。OA=OB で、∠COA=∠COB と条件が A と B について対称なので、納得できる結果です。
(2) CH=21a+21b−c を公式4で展開します(x=y=21,z=−1)。
∣CH∣2=41⋅4+41⋅4+9+2⋅41⋅2+2⋅(−21)⋅3+2⋅(−21)⋅3=1+1+9+1−3−3=6よって CH=6 です。
(別解)∣OH∣2=41(4+4+2⋅2)=3 なので、CH2=OC2−OH2=9−3=6。
(3) 三角形 OAB は 1 辺 2 の正三角形なので、面積は 21⋅2⋅2sin60∘=3。
V=31⋅3⋅6=318=2
これで、空間のベクトルで長さ・角・面積・体積まで計算できるようになりました。この章では、平面を「3 点」や「2 本のベクトル」で表してきましたが、次の第9章では、平面や直線、球面を方程式で表し、点と平面の距離などをもっと手早く求める方法を学びます。
※ここは発展ページです。高校の範囲では、本文の公式を使って空間の内積を計算し、垂線の足・面積・体積を求められれば十分です。本文では、空間の内積の成分表示を余弦定理から導き、「2 本と垂直なら平面に垂直」「垂線の足までが最短」を図と計算で確かめました。ここでは、それらを証明の形に整え、3 本のベクトルの直交化、面積の「三平方の定理」、外積、そして第7章で予告した行列式と体積の関係を示します。
以下、空間の点・平面の基本的な性質と、第7章の厳密定義(1次独立・分解の一意性)は認めて使います。
空間の内積の成分表示
定理1:空間の内積の成分表示
座標空間(直交座標)で a=(a1, a2, a3),b=(b1, b2, b3) とする。a⋅b を、a,b の一方が 0 なら 0、そうでなければ ∣a∣∣b∣cosθ(θ はなす角)と定めると、つねに
a⋅b=a1b1+a2b2+a3b3が成り立つ。
証明 どちらかが 0 なら両辺とも 0 である。以下、どちらも 0 でないとする。
始点を原点にそろえ、A(a1, a2, a3),B(b1, b2, b3) とする。どちらの場合も、
AB2=∣a∣2+∣b∣2−2∣a∣∣b∣cosθ(∗)を示せば、本文と同じ展開で結論が得られる。
(i) O,A,B が一直線上にないとき、三角形 OAB で ∠AOB=θ なので、(∗) は余弦定理そのものである。
(ii) 一直線上にあるとき、b=ka(k=0)と書ける。k>0 なら θ=0∘ で、(∗) の右辺は (∣a∣−∣b∣)2=(1−k)2∣a∣2。k<0 なら θ=180∘ で、右辺は (∣a∣+∣b∣)2=(1−k)2∣a∣2。どちらも左辺 ∣b−a∣2=(k−1)2∣a∣2 に等しい。
2 点間の距離の公式(第7章 公式1)で (∗) の両辺を成分で書き、整理すると a1b1+a2b2+a3b3=∣a∣∣b∣cosθ を得る。(証明終)
証明の中で、2 点間の距離の公式、つまり座標軸が互いに 垂直 であることを使っています。第3章の厳密定義で注意したとおり、成分の式は直交座標でだけ成り立ちます。この結果、内積について第3章で示した計算法則(対称性・分配法則・実数倍)も、成分の式から空間でそのまま確かめられます。
平面に垂直なベクトルと正射影
定義1:平面に垂直なベクトル
u,v を 1次独立なベクトルとし、W={su+tv∣s, t は実数} とする(u,v に平行な平面の向きを表すベクトル全体)。ベクトル n が、W のすべてのベクトル w に対して n⋅w=0 を満たすとき、n は W に(あるいは u,v に平行な平面に)垂直 であるという。0 でない垂直なベクトルを、その平面の 法線ベクトル という。
本文の公式5の判定は、「n⋅u=n⋅v=0 ならば n は W に垂直」ということで、分配法則から直ちにしたがいます。図形の性質 第7章では、この判定を合同な三角形を 2 回使って証明しましたが、ベクトルでは 1 行で済みます。
定理2:平面への正射影(直交分解)
u,v を 1次独立なベクトル、W を定義1のとおりとする。任意のベクトル p は
p=h+q,h∈W,q は W に垂直の形に、ただ 1 通りに表せる。さらに、W のどのベクトル w についても
∣p−w∣2=∣q∣2+∣h−w∣2≧∣q∣2が成り立ち、等号は w=h のときに限る。h を p の W への 正射影 という。
証明 (存在)h=su+tv とおく。q=p−h が u,v と垂直である条件は
∣u∣2s+(u⋅v)t=p⋅u,(u⋅v)s+∣v∣2t=p⋅vである。この連立方程式の係数から作る数 G=∣u∣2∣v∣2−(u⋅v)2 は、u,v を 2 辺とする平行四辺形の面積の 2 乗であり(本文 公式3の三角形の面積 S を使うと G=4S2)、u,v が 1次独立なので正である。第2章の厳密定義(2 × 2 のクラメルの公式)により、G=0 なら s,t はただ 1 組に決まる。この s,t で作った h,q が求める分解である(q は定義1の判定により W に垂直)。
(一意性)h+q=h′+q′ と 2 通りに表せたとすると、x=h−h′=q′−q は W に属し、しかも W に垂直である。とくに x は自分自身と垂直なので ∣x∣2=x⋅x=0,よって x=0。
(最短)p−w=q+(h−w) で、h−w∈W は q と垂直なので
∣p−w∣2=∣q∣2+2q⋅(h−w)+∣h−w∣2=∣q∣2+∣h−w∣2等号は ∣h−w∣=0 のときに限る。(証明終)
p=AP,W を平面 ABC の向きとすれば、A+h が垂線の足 H、∣q∣ が点と平面の距離です。本文の例題5や実践問題 j15 で解いた連立方程式は、この証明の連立方程式そのものです。第5章の厳密定義 定理1(直線への正射影)が、平面への正射影に 1 段上がりました。
3 本のベクトルの直交化
第5章の厳密定義 定理4では、1次独立な 2 本から垂直な 2 本を作りました。空間では、同じ操作をもう 1 回続けられます。
定理3:グラム・シュミットの直交化(3 本)
a,b,c を 1次独立とする。
e1=a,e2=b−∣e1∣2b⋅e1e1,e3=c−∣e1∣2c⋅e1e1−∣e2∣2c⋅e2e2と定めると、e1,e2,e3 はどれも 0 でなく、どの 2 本も垂直である。
証明 e1=a=0。e2 は b から a の実数倍を引いたものなので、e2=0 なら b が a の実数倍になり、1次独立に反する。e2⋅e1=b⋅e1−∣e1∣2b⋅e1∣e1∣2=0。
e1,e2 は a,b の実数倍の和なので、e3 は c から a,b の実数倍の和を引いたものである。e3=0 なら c が a,b で表され、第7章の定理1 に反する。また e1⋅e2=0 を使うと
e3⋅e1=c⋅e1−∣e1∣2c⋅e1∣e1∣2−0=0同様に e3⋅e2=0。(証明終)
e3 は、c から「a,b の平面への正射影」を引いた残り、つまり定理2 の q です。直交する 2 本 e1,e2 を使うと、正射影が連立方程式なしに内積 2 回で求まることが、この式からわかります。
例として a=(1, 1, 0),b=(1, 0, 1),c=(0, 1, 1) を直交化してみます。
e2=(1, 0, 1)−21(1, 1, 0)=(21, −21, 1)
計算を楽にするため、向きだけを使って e2 を 2 倍の (1, −1, 2) に取りかえます(実数倍しても、式の中の ∣e2∣2c⋅e2e2 は変わりません)。
e3=(0, 1, 1)−21(1, 1, 0)−61(1, −1, 2)=(−32, 32, 32)
(1, 1, 0),(1, −1, 2),(−1, 1, 1) は、確かにどの 2 本の内積も 0 です。これらを大きさで割れば、互いに垂直な単位ベクトルの組、つまり新しい直交座標の「ものさし」が得られます。
面積の三平方の定理と外積
本文では、平面専用の面積の式 21∣a1b2−a2b1∣ は空間では使えないと述べました。空間では、この形の式が 3 つそろって現れます。数と式 第10章の厳密定義 定理3(ラグランジュの恒等式)で n=3 とすると
(a12+a22+a32)(b12+b22+b32)−(a1b1+a2b2+a3b3)2=(a2b3−a3b2)2+(a3b1−a1b3)2+(a1b2−a2b1)2
です。左辺は ∣a∣2∣b∣2−(a⋅b)2 にほかなりません。
定理4:面積の三平方の定理
空間の三角形の面積を S とし、その三角形を yz 平面,zx 平面,xy 平面に正射影した三角形(各頂点から座標平面に下ろした垂線の足を結んだ三角形)の面積を S1,S2,S3 とすると
S2=S12+S22+S32証明 三角形を平行移動しても 4 つの面積は変わらないので、1 つの頂点が原点にあるとしてよい。残りの頂点を A(a1, a2, a3),B(b1, b2, b3) とする。
xy 平面への正射影は、原点と (a1, a2),(b1, b2) を頂点とする xy 平面上の三角形なので、第3章 公式6から S3=21∣a1b2−a2b1∣。同様に S1=21∣a2b3−a3b2∣,S2=21∣a3b1−a1b3∣ である。
一方、本文の公式3から S2=41{∣a∣2∣b∣2−(a⋅b)2}。これにラグランジュの恒等式を使えば
S2=41{(a2b3−a3b2)2+(a3b1−a1b3)2+(a1b2−a2b1)2}=S12+S22+S32(証明終)
直角三角形の 3 辺の長さの関係 c2=a2+b2 が、三角形の「影の面積」について成り立っているわけです。実践問題 j19 では、S2=6,S12+S22+S32=1+4+1 で確かめました。例題3 の三角形でも、3 つの影の面積はどれも 23 で、3⋅49=427=S2 となっています。
定理4 に出てきた 3 つの数を、そのままベクトルの成分として並べたものに名前がついています。
定義2:外積(参考)
a=(a1, a2, a3),b=(b1, b2, b3) に対して
a×b=(a2b3−a3b2, a3b1−a1b3,a1b2−a2b1)を、a と b の 外積(ベクトル積)という。
外積には、次の性質があります。
- (a×b)⋅a=a1(a2b3−a3b2)+a2(a3b1−a1b3)+a3(a1b2−a2b1)=0。同様に (a×b)⋅b=0。つまり外積は a,b の両方に垂直で、a,b が 1次独立なら、それらを含む平面の法線ベクトルになる
- ラグランジュの恒等式から ∣a×b∣2=∣a∣2∣b∣2−(a⋅b)2。つまり ∣a×b∣ は a,b を 2 辺とする平行四辺形の面積で、a,b が 1次独立なら 0 でない
- 向きは、a から b へ右ねじを回したときに進む向きになる(右手系の座標で。第7章の小話1で述べたとおり、左手系では逆になる)
たとえば例題2 の a=(1, 1, 0),b=(1, 2, 2) では a×b=(2, −2, 1) で、本文の答えの 3 倍になっています。公式2の連立方程式は、外積を知っていれば 1 回の計算で済むわけです。高校の教科書では外積を扱わないことが多いので、本文では連立方程式で求めました。外積と内積が四元数の積から生まれた経緯は、第3章の小話3を参照してください。
四面体の体積と行列式
第7章の厳密定義で、3 本のベクトルの行列式 D(a, b, c) を紹介し、「∣D∣ は平行六面体の体積」という事実を証明なしで挙げました。外積を使うと、これを証明できます。
D の定義式を並べかえると、次のように外積と内積で書けることがわかります。
D(a, b, c)=(a2b3−a3b2)c1+(a3b1−a1b3)c2+(a1b2−a2b1)c3=(a×b)⋅c
(第7章の定義3 を展開して、c1,c2,c3 ごとにまとめると確かめられます。)
定理5:四面体の体積と行列式
4 点 O,A,B,C が同一平面上にないとき、a=OA,b=OB,c=OC とすると、四面体 OABC の体積 V は
V=61D(a, b, c)=61(a×b)⋅cである。したがって、a,b,c を 3 辺とする平行六面体の体積は ∣D∣ である。
証明 a,b は 1次独立なので、n=a×b は平面 OAB の法線ベクトルで、三角形 OAB の面積は S=21∣n∣ である。
C から平面 OAB に下ろした垂線の足を H とすると、HC は平面 OAB に垂直なので HC=kn と書ける。実際、αa+βb+γn=0 の両辺と n の内積をとると γ∣n∣2=0 なので γ=0、さらに α=β=0 となり、a,b,n は 1次独立である。そこで HC=sa+tb+kn と表すと、sa+tb=HC−kn は平面 OAB の向きのベクトルで、しかも平面 OAB に垂直なので、定理2 の一意性の証明と同じ理由で 0 になる。OH は平面 OAB のベクトルなので OH⋅n=0。よって
c⋅n=(OH+kn)⋅n=k∣n∣2,CH=∣k∣∣n∣=∣n∣∣c⋅n∣したがって
V=31⋅21∣n∣⋅∣n∣∣c⋅n∣=61∣c⋅n∣=61D(a, b, c)平行六面体は、同じ底面(面積 2S)と同じ高さ CH をもつので、体積は 2S⋅CH=6V=∣D∣ である。(証明終)
本文の問題で確かめてみましょう。例題5 では D=4⋅4⋅2=32 で V=632=316、実践問題 j12 では a×b=(1, −2, 4),D=9 で V=23 となり、どちらも本文の答えと一致します。第7章 例題3 の D=16 は、平行六面体の体積が 16、同じ 3 辺でつくる四面体の体積が 38 であることを表しています。
参考:成分がわからず、6 つの基本の数(公式4)だけがわかっている場合には、次の式が知られています(証明は大学の線形代数で、行列の積と行列式の性質を使います)。
V2=361{∣a∣2∣b∣2∣c∣2+2(a⋅b)(b⋅c)(c⋅a)−∣a∣2(b⋅c)2−∣b∣2(c⋅a)2−∣c∣2(a⋅b)2}
例題6 の数(4,4,9,2,3,3)を入れると、中かっこの中は 144+36−36−36−36=72 で、V2=2,V=2。実践問題 j17 の数(5,10,13,1,9,4)では 650+72−405−160−13=144 で、V=612=2 となり、本文の答えと一致します。