問1
, のとき、 を成分で表しなさい。
目次 / ベクトル / 数学C
—— 矢印を「2 つの数の組」に置きかえて、図をかかずに計算する ——
この章では、座標平面の上でベクトルを 2 つの数の組(成分)で表します。第1章で矢印をつないだり伸ばしたりした計算が、成分どうしの足し算やかけ算に置きかわり、大きさも三平方の定理で求められるようになります。平行の判定やベクトルの分解も、連立方程式を解くだけの作業になります。
第1章では、矢印の図をかいてベクトルを計算しました。図は全体の様子をつかむのに便利ですが、長さや向きを図から正確に読み取るのは大変です。そこで、座標平面を用意して、ベクトルを数で表すことにします。
原点を O とし、 軸の正の向きの単位ベクトルを , 軸の正の向きの単位ベクトルを とします。この 2 つを基本ベクトルといいます。 と は零ベクトルでなく、平行でもないので 1次独立です。すると第1章の公式6により、平面上のどんなベクトル も
とただ 1 通りに表せます。この 2 つの実数 , を並べて書いたものが、ベクトルの成分です。
最後の性質は、第1章の「係数を比べる」そのものです。, は 1次独立なので、 なら係数どうしが等しくなります。
微分積分 第13章では、速度を と「2 つの数の組」で書きました。あれがまさに速度ベクトルの成分表示です。
多くの 3D プリンターでは、ノズルを左右に動かすモーターと、前後に動かすモーターが別々についています。「左右に mm、前後に mm」という命令を受け取ると、2 つのモーターがそれぞれの向きに回り、ノズルは斜めに進みます。斜めの動きを、向きの決まった 2 つのモーターへの「数の命令」に分けて伝えているのです。成分表示は、この命令書にあたります。基本ベクトル , は、それぞれのモーターが 1 目盛りだけ動いたときの動きです。
成分表示とは、ベクトルを基本ベクトル , の「いくつ分」かの組 で表すことで、2 つのベクトルが等しいのは成分がそれぞれ等しいときだということです。
(1) を、基本ベクトル , を使って表しなさい。
(2) が成り立つような , の値を求めなさい。
【解答】
(1) 成分が の係数、 成分が の係数です。
(2) 成分どうし、 成分どうしが等しいので
1 つ目から ,2 つ目から で 。
成分が分かれば、大きさは計算で求められます。 を原点から置くと、終点は A です。O と点 と A を結ぶと、横の辺が ,縦の辺が の直角三角形ができ、斜辺が です。三平方の定理から次の公式が出てきます。
また、三角比と三角関数 第6章で、原点を中心とする半径 の円の上の点を と表しました。これをベクトルの言葉で読み直すと、「大きさ で、 軸の正の向きから角 だけ回った向きのベクトル」の成分になります。
のとき
大きさが で、 軸の正の向きから測った角が のベクトルの成分は
や が負の数でも、2 乗すれば正になるので、公式はそのまま使えます。
テレビの「50 インチ」は、画面の横幅ではなく対角線の長さです。1 インチは約 2.54 cm なので、50 インチは約 127 cm。横長の画面(縦横の比が 9:16)なら、横が約 111 cm、縦が約 62 cm で、 になります。横と縦の長さ(成分)から対角線(大きさ)を出すのは、公式2と同じ計算です。
ベクトルの大きさは成分を 2 乗して足した値の平方根で、逆に大きさと角が分かれば、成分は と求められるということです。
(1) の大きさを求めなさい。
(2) 大きさが で、 軸の正の向きとなす角が のベクトル を成分で表しなさい。ただし、角は 軸の正の向きから反時計回りに測るものとする。
【解答】
(1)
(2) , なので
検算: で、大きさはたしかに です。
和・差・実数倍を、成分で計算してみます。, とすると、第1章の計算法則を使って
となります。 の係数どうし、 の係数どうしをまとめただけです。実数倍も同じように計算できます。
,,, を実数とするとき
成分に分けてしまえば、 成分は 成分どうし、 成分は 成分どうしで、ふつうの数の計算をするだけです。2 つの成分が混ざり合うことはありません。
3D プリンターの例に戻ります。「左右に 、前後に 」の命令のあとに「左右に 、前後に 」の命令が続けば、ノズルは全体で「左右に 、前後に 」動きます。左右のモーターは左右の数だけを、前後のモーターは前後の数だけを足していくので、成分ごとの足し算になるのです。同じ形を 2 倍の大きさで作りたければ、すべての命令の数を 2 倍にします。これが実数倍です。
成分で表したベクトルの和・差・実数倍は、 成分どうし、 成分どうしを別々に計算すればよいということです。
, のとき、次のものを求めなさい。
(1) の成分
(2)
【解答】
(1)
(2) まず和を成分で求めてから、大きさの公式を使います。
とは等しくありません。大きさは、和を先に計算してから求めます。
2 点 A,B があるとき、 の成分を求めます。第1章の「終点 − 始点」を使うと
です。始点を原点 O にそろえると、各点へのベクトルの成分は点の座標そのものなので、座標の引き算で が求まります。
2 点 A,B について
2 つ目の式は、2 点間の距離の公式になっています。
部屋の模様替えを方眼紙の見取り図で考えてみます。ソファを、窓ぎわの点 から壁ぎわの点 へ動かすなら、動かした量は ,つまり「横へ 4 マス、縦へ マス」です。見取り図のどこに原点を置いても、座標の差をとれば原点の位置は消えるので、この移動量は変わりません。
の成分は「終点 B の座標 − 始点 A の座標」で求められ、その大きさが 2 点 A,B の距離になるということです。
3 点 A,B,C がある。
(1) の成分と大きさを求めなさい。
(2) 四角形 ABCD が平行四辺形になるように、点 D の座標を求めなさい。
【解答】
(1)
(2) 四角形 ABCD が平行四辺形になるのは のときです。D とおくと
成分を比べて , より ,。
頂点を A,B,C,D の順に回ることに注意します。辺 AD と辺 BC が向かい合う辺で、向きも同じになります。
第1章の公式5では、 を「 となる実数 がある」と表しました。これを成分で書くと
です。 成分も 成分も同じ 倍になっているので、成分の比が とそろっています。比の式は内側どうし・外側どうしをかけて と書きかえられます。
, のとき
と同じ向きの単位ベクトルは
の形にしておくと、成分に が含まれていても割り算をせずに判定できます。たとえば と は、どちらも 軸に平行です。 で、条件を満たしています。この形から の が見つかる理由は、厳密定義のページで確かめます。
スマホで撮った写真を思い浮かべてください。縦横の比が の写真(横 4000 ピクセル・縦 3000 ピクセル)を、横 800・縦 600 に縮めても、同じ形のまま小さくなるだけです。 で、2 つを「ベクトル」とみなせば平行です。一方、横 1920・縦 1080 の画像は、 なので形が違います。比がそろっているかどうかを、たすき掛けの差で確かめているのです。
成分で表したベクトルが平行になるのは成分の比がそろうときで、 で判定でき、単位ベクトルは各成分を大きさで割れば得られるということです。
とする。
(1) が と平行になるような の値を求めなさい。
(2) と同じ向きの単位ベクトルを成分で表しなさい。
【解答】
(1) 平行条件 より
このとき で、 と逆向きです。
(2) なので
分母は有理化しておきます。
第1章の公式6で、1次独立な , を使えば、どのベクトル も とただ 1 通りに表せることを学びました。第1章では図形の性質を使って , を探しましたが、成分が分かっていれば計算だけで求められます。
, が 1次独立(零ベクトルでなく平行でない)のとき、 を と表す実数 , は、連立方程式
の解として、ただ 1 組求まります。
を と比べれば、この連立方程式が出てきます。
ミックスナッツを量り売りしている店を考えます。袋 A にはアーモンド 20 g とくるみ 10 g、袋 B にはアーモンド 10 g とくるみ 30 g が入っています。アーモンド 70 g・くるみ 60 g にしたいとき、袋 A を 袋、袋 B を 袋買うとすると、10 g を 1 として
です。, を解くと ,。袋 A を 3 袋、袋 B を 1 袋買えばちょうどそろいます。もし 2 つの袋の中身の比が同じ(平行)だったら、何袋買っても比は変わらず、好きな組み合わせは作れません。1次独立が必要なのはこのためです。
1次独立な 2 つのベクトルで を分解するときは、 を成分ごとに書いて、, の連立方程式を解けばよいということです。
, のとき、 を の形で表しなさい。
【解答】
なので、 と は平行でなく、1次独立です。 なので、成分を比べて
2 つ目の式から 。1 つ目に代入すると より ,。
検算: です。
第3章では、2 つのベクトルの「内積」という新しい計算を学びます。まず「なす角」を使って定義し、そのあと成分を使うと という簡単な式で計算できることを確かめます。この章の成分表示が、そこでも活躍します。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
, のとき、 を成分で表しなさい。
問2
の大きさを求めなさい。
問3
のとき、 を成分で表しなさい。
問4
2 点 A,B について、 を成分で表しなさい。
(終点 − 始点)
問5
を、基本ベクトル , を使って表しなさい。
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
, のとき、(1) ,(2) を成分で表し、(3) を求めなさい。
(1) (2) (3)
成分ごとに計算します。
(1)
(2)
(3) 和を先に求めてから大きさを計算します。
問2 ★
が成り立つような , の値を求めなさい。
成分どうし、 成分どうしが等しいので
2 式を足すと より 。1 つ目の式に代入して 。
問3 ★
の大きさが となるような実数 の値を求めなさい。
大きさの 2 乗で式を立てると、根号を外して計算できます。
と は 軸について対称な向きで、どちらも大きさは です。
問4 ★
2 点 A,B について、 を成分で表し、線分 AB の長さを求めなさい。
,
終点 B の座標から始点 A の座標を引きます。
問5 ★
角は 軸の正の向きから反時計回りに測るものとする。大きさが で、 軸の正の向きとなす角が のベクトルを成分で表しなさい。
大きさ ,角 のベクトルは です。, なので
は第2象限の角なので、 成分が負、 成分が正になっています。
問6 ★
と が平行になるような の値を求めなさい。
平行条件 より
このとき で、 と逆向きです。
問7 ★
と同じ向きの単位ベクトルを成分で表しなさい。
なので、各成分を で割ります。
検算: です。
問8 ★
, のとき、 を の形で表しなさい。
なので、, は 1次独立です。
を と比べて
1 つ目から 。2 つ目に代入すると , より ,。
検算: です。
問9 ★★
, を同時に満たす , を成分で表しなさい。
数の連立方程式と同じように、2 式を足して を消します。
2 つ目の式から なので
検算: です。
問10 ★★
3 点 A,B,C と点 D の 4 点を頂点とする平行四辺形ができるとき、点 D の座標をすべて求めなさい。
,,
頂点の並び順が決まっていないので、D と向かい合う頂点が A,B,C のどれかで場合を分けます。D とします。
D と B が向かい合うとき(四角形 ABCD) なので より D。
D と A が向かい合うとき(四角形 ABDC) なので より D。
D と C が向かい合うとき(四角形 ADBC) なので より D。
A,B,C は一直線上にない( と で )ので、どの場合も平行四辺形はつぶれません。
問11 ★★
と平行で、大きさが のベクトルを成分で表しなさい。
,
です。 と平行なベクトルは と書け、大きさは なので
「平行」には同じ向きと逆向きの両方が含まれるので、答えは 2 つです。
問12 ★★
,, とする。 が と平行になるような実数 の値を求めなさい。
まず を成分で表します。
との平行条件より
このとき で、零ベクトルではありません。
問13 ★★
3 点 A,B,C が一直線上にあるような の値を求めなさい。
始点が同じ 2 つのベクトル , が平行なら、B も C も A を通る同じ直線の上にあります(第1章 公式5のあと)。
平行条件より
このとき で、C は A から見て B と同じ側の、3 倍の距離にあります。
問14 ★★
が 軸の正の向きとなす角 (, 軸の正の向きから反時計回りに測る)を求めなさい。また、 と同じ向きで大きさが のベクトルを成分で表しなさい。
,
なので、 と比べて
でこれを満たすのは第4象限の角で
同じ向きで大きさ にするには、大きさ の を 倍します。
問15 ★★
, が 1次独立となるような実数 の条件を求めなさい。
かつ
は 成分が , は 成分が なので、 の値にかかわらずどちらも零ベクトルではありません。したがって、1次独立になるのは平行でないときです。
平行になる条件 を先に求めます。
平行になるのは のときなので、1次独立となる条件は
確かめ: のとき , のとき , で、たしかに平行です。
問16 ★★
2 点 A,B から等しい距離にある 軸上の点 P の座標を求めなさい。
P
P とおきます。, なので、 の両辺を 2 乗して
展開すると で、 より 。
検算:, です。
問17 ★★★
, とする。実数 が変化するとき、 の最小値と、そのときの の値を求めなさい。
のとき最小値
大きさは根号を含むので、2 乗した が最小になるときを考えます(大きさは 以上なので、2 乗が最小のとき大きさも最小です)。
平方完成すると
よって のとき最小値 をとります。大きさの最小値はその平方根で
図でいえば、 の終点から、 の向きの直線の上を動く点までの距離が最も短くなるところです。第3章の内積を使うと、そのとき と が垂直になっていることも確かめられます。
問18 ★★★
,, とする。(1) を の形で表しなさい。(2) が と平行になるような実数 の値を求めなさい。
(1) (2)
(1) なので , は 1次独立です。成分を比べて
1 つ目から 。2 つ目に代入すると より ,。
(2) と の平行条件より
このとき で、零ベクトルではありません。
別解 (1) の結果を使うと です。これが の実数倍になるには、1次独立な の係数が ,つまり であればよく、同じ が得られます。
問19 ★★★
, の始点をそろえたとき、2 つの間の角( より小さいほう)を 2 等分する向きの単位ベクトルを成分で表しなさい。
, の大きさが違うので、そのまま足しても角の二等分線の向きにはなりません。まず、それぞれ同じ向きの単位ベクトルにそろえます。
始点をそろえた , を 2 辺とする平行四辺形は、2 辺の長さがどちらも なのでひし形です。ひし形の対角線は頂点の角を 2 等分するので、 が求める向きです。
向きは と同じです。 なので、求める単位ベクトルは
「大きさをそろえてから足す」のが要点です。 は長いほうの に引っぱられて、二等分の向きからずれてしまいます。
問20 ★★★
, とする。 と が平行になるような の値を求めなさい。
成分で表すと
どちらも 成分が でないので零ベクトルではありません。平行条件より
このとき で、 と そのものが平行になっています。これは偶然ではありません。, が 1次独立なら、 と も 1次独立になります(第1章 j20 と同じ考え方で、 とすると係数比較で , となり矛盾します)。したがって、2 つが平行になるのは のときに限られ、 からも同じ が出てきます。
天気予報で「北の風、風速 5 メートル」と言うとき、「北」は風が吹いてくる方角です。北風は北から南へ向かって吹くので、ベクトルとして見ると南向きの矢印になります。
コンピューターで天気を予測する数値予報では、風を「東西方向にどれだけ(東向きを正)」と「南北方向にどれだけ(北向きを正)」の 2 つの数に分けて計算しています。気象の分野では、それぞれ u 成分・v 成分と呼ばれます。まさにこの章の成分表示です。
なぜわざわざ分けるのでしょう。たとえば、ある場所で 1 時間目は北北西からの風、2 時間目は北北東からの風が吹いたとします。風向を北から時計回りの角度で表すと、およそ と です。この 2 つを数としてそのまま平均すると ,つまり「南からの風」になってしまいます。どちらも北寄りの風なのに、おかしな答えです。成分に分けてから平均すれば、東西の成分は打ち消し合い、南北の成分だけが残って、正しく「北からの風」になります。向きのある量は、成分に分けてから計算するのが安全なのです。
豆知識
天気図の風の記号は、1 本の線の向きで風向きを、線の先につけた「矢羽根」の本数で風の強さ(風力)を表します。向きと大きさを 1 つの記号にまとめた、天気図の上のベクトルといえます。
パソコンのマウス(光学式)の底には、小さなカメラがついています。机の表面を 1 秒間に何千回も撮影し、前の画像との模様のずれから「横にどれだけ、縦にどれだけ動いたか」を計算して、パソコンに送り続けています。
ここで送られているのは、画面上のどこにいるかという「位置」ではなく、「横に 、縦に 」のような移動量、つまりベクトルの成分です。パソコンはこの成分を次々に足していき(ベクトルの和)、カーソルの位置を決めています。マウスを机から持ち上げて元の場所に戻しても、カーソルが動かないのはこのためです。持ち上げている間は机の模様が見えず、移動量が 0 のままだからです。
豆知識
パソコンの設定にある「マウスの速度(感度)」は、送られてきた移動量を何倍してカーソルを動かすかを決めるものです。つまりベクトルの実数倍です。一方、絵を描くときに使うペンタブレットの多くは、板の上のどこにペンがあるかという「位置」を送ります。板の右上をペンでつつけば、カーソルもすぐ画面の右上へ飛んでいきます。
チェスの駒ナイトは、「縦に 2・横に 1」または「縦に 1・横に 2」だけ跳ぶ駒です。1 手の動きを成分で書くと、次の 8 通りになります。
どれも大きさは で、ナイトはいつも同じ距離だけ跳んでいることが分かります。
ナイトはすぐ隣のマスへは一度では動けません。けれども、動きを 3 回組み合わせると
となり、3 手でちょうど 1 マス右へ移れます。ベクトルの和で考えると、ナイトは十分に広い盤なら(実は普通の 8 × 8 の盤でも)どのマスにもたどり着けるのです。
豆知識
ナイトの 1 手では、 成分と 成分の和がいつも奇数( か )になります。チェス盤は隣り合うマスの色が交互なので、ナイトは 1 手ごとに必ず白いマスと黒いマスを行き来します。将棋の桂馬はナイトの親戚のような駒ですが、動けるのは前向きの の 2 通りだけで、後ろへは戻れません。「桂馬の高跳び歩の餌食」ということわざは、前に出すぎた桂馬が逃げられずに取られてしまう様子から生まれました。
※ここは発展ページです。高校の範囲では「ベクトルを 2 つの数の組で表す」という理解で十分ですが、矢印と数の組を同一視してよいのはなぜか、平行条件 はなぜ「同値」なのか、が気になる人のために、少し厳密な見方を紹介します。
実数の組 全体の集合を と書く。 の要素どうしの和と実数倍を
で定める。平面のベクトル全体の集合を とし、座標軸の正の向きの単位ベクトルを , とする。 が と表されるとき
と定め、 を の成分表示という。
第1章の定理3(分解の一意性)により、, はただ 1 組に決まるので、 は から への対応としてきちんと定まっています。本文で と「」で書いていたのは、正確には のことです。
は次の性質をもつ。
証明 1. ならば なので、異なるベクトルが同じ組に対応することはない。また、任意の に対して とおけば なので、対応する相手のない組もない。
であり、分解の一意性から , となる。(証明終)
1 対 1 に対応していて、しかも和と実数倍の計算がそのまま移るので、矢印の世界 で計算しても、数の組の世界 で計算しても、答えは必ず対応し合います。このような対応を同型写像といい、「 と はベクトル空間として同じ形をしている」と言います。本文で矢印と数の組を「」で結んでよかったのは、この定理のおかげです。
ただし、成分は座標軸の選び方に左右されます。同じ矢印でも、座標軸を 回して置き直せば、成分 は に変わります。ベクトルそのものは座標軸と無関係に存在していて、成分は「その座標軸から見たときの姿」だと考えるのが正確です。
, とする。次の 2 つは同値である。
(i) となる実数 がある (ii)
証明 (i) ⇒ (ii):, を代入すると 。
(ii) ⇒ (i): なので、, の少なくとも一方は でない。
のとき、 とおく。 は明らか。(ii) より で、両辺を で割ると 。よって 。
のときは なので、 とおけば同じようにして が示される。(証明終)
本文の公式5では も仮定しましたが、定理2では も許しています。 は の場合にあたり、(ii) も成り立ちます。「平行」という言葉は零ベクトルでない 2 つのベクトルに対して使うので、本文ではそれを除いていたのです。証明で と に場合を分けたのは、 で割ることを避けるためです。 という「割り算を含まない形」で条件を書いておくと、この場合分けを利用者がしなくて済みます。
, とし、 とおく。
証明 1. (⇒) 1次独立なら で、 は の実数倍でない( かつ平行でない)。定理2の対偶より 。
(⇐) とする。 なら , でも となるので、どちらも零ベクトルでない。さらに定理2より は の実数倍でないので、平行でない。よって 1次独立である。
2 の式はクラメルの公式と呼ばれるものの、2 行 2 列の場合です。大学の線形代数では、 を
と書いて行列式と呼びます。 が かどうかで「2 本のものさしが平面全体を測れるか」が決まるわけです。さらに には、, を 2 辺とする平行四辺形の面積という図形的な意味もあります。 は、その平行四辺形がつぶれて面積がなくなる(2 本が同じ直線の上にある)ことにほかなりません。面積との関係は、内積を学ぶ第3章で確かめられます。
この章の学習が終わったら
学習完了テストを受ける