問1
を で割った余りを求めなさい。
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( を代入して )
目次 / 数と式 / 数学II
—— 割り算をしないで余りを知り、3次・4次の方程式を1次と2次に分けて解く ——
この章では、整式を $x - a$ で割った余りが、割り算をしなくても $x = a$ を代入するだけで分かる「剰余の定理」から始めます。余りが $0$ になる、つまり割り切れるかどうかを代入で判定するのが「因数定理」です。これを使うと、第2章の公式では手が出なかった3次式も因数分解できるようになります。後半では、因数分解を手がかりに3次・4次の方程式(高次方程式)を解きます。第11章で学んだ複素数の範囲で考えるので、$x^3 = 1$ の解 $\omega$ や、虚数解から係数を決める問題も扱います。これで「数と式」の分野は最後の章です。
第7章の例題6(1) では、 を で割り、余り を筆算で求めました。ところで、この式に を代入してみると です。余りとぴったり同じ値になりました。これは偶然ではありません。
整式 を1次式 で割った余りは である。
また、1次式 ()で割った余りは である。
理由は第7章の除法の等式から分かります。 を で割った商を 、余りを とすると
です。割る式が1次式なので、余りは 次以下、つまり定数です。この等式は についての恒等式(第9章)なので、 を代入すると の部分が になり、 が残ります。 で割るときも同じで、 となる を代入すれば余りが出ます。
鍋いっぱいのカレーの味を確かめるのに、全部を食べる人はいません。スプーン1杯すくって味見すれば十分です。長い筆算を最後までやり通さなくても、 という「ひとさじ」を代入するだけで、余りという結果が分かります。
で割った余りは、割り算をしなくても を代入した値 として求められるということです。
を次の式で割った余りを求めなさい。
(1) (2) (3)
【解答】
(1) で割った余りは です。
(2) なので、余りは です。
(3) となるのは なので、余りは です。
(2) のように は「」と読みかえます。符号を取り違えやすいところです。
剰余の定理を2回使うと、2次式で割った余りも求められます。
整式 を2次式 ()で割った余りは1次以下なので、 とおける。
, を代入すると , となり、この連立方程式から , が決まる。
2次式で割った余りは1次式か定数なので、「」と文字で置いておくのがコツです( なら定数の余りになります)。 そのものが分からなくても、 と で割った余りさえ分かっていれば、余り を求められます。
2桁の暗証番号を忘れてしまったとします。「2つの数字を足すと 」「十の位から一の位を引くと 」という2つのヒントがあれば、番号は と決まります。分からない数字が2つなら、ヒントも2つ必要です。余り には分からない文字が2つあり、 と という2つのヒントで決まります。
2次式で割った余りは とおき、割る式が になる2つの値を代入して、, の連立方程式を解けばよいということです。
整式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが である。 を で割った余りを求めなさい。
【解答】
剰余の定理より , です。 を で割った商を 、余りを とおくと
, を代入して
辺々引くと より 、 です。よって余りは です。
がどんな式かは最後まで分かりませんが、余りは決まります。
剰余の定理で、余りがちょうど になる場合を考えます。
整式 について
が成り立つ。
因数の見つけ方 係数が整数の整式 で となる を探すときは、
の中から候補を選んで代入してみる。
なら、剰余の定理より余りが 、つまり割り切れます。逆に と書けていれば、 を代入して です。第9章の厳密定義 定理1 で除法を使わずに示した事実を、ここでは除法の言葉で言い直したことになります。
候補の見つけ方には理由があります。たとえば が ( は整数)を因数にもてば、 を展開したときの定数項は で、それが になるはずです。だから は の約数に限られます。最高次の係数が でないときは分数の候補も出てきます(理由は厳密定義ページで示します)。
ジグソーパズルで、どこに入るか分からないピースを持っているときは、形の合いそうな場所に試しにはめてみます。ぴたりとはまれば、その場所で決まりです。因数定理の「代入して になるか」も同じで、候補の数を1つずつ試し、 になった数 から因数 が見つかります。やみくもに試すのではなく、定数項の約数という「形の合いそうな場所」から試すのがポイントです。
となる を見つければ が因数だと分かるので、定数項(と最高次の係数)の約数から候補を選んで代入すればよいということです。
(1) を因数分解した式を求めなさい。
(2) が で割り切れるように、定数 の値を定めなさい。
【解答】
(1) とおきます。候補は の約数 ,,, です。 を代入すると
なので、 は で割り切れます。割り算をすると商は です(割り算は次の公式4の組立除法でも計算できます)。
(2) が で割り切れる条件は、因数定理より です。
よって です。
で割る割り算は、係数だけを並べた短い計算で済ませられます。
を で割るときは、係数を次数の高い順に並べ、左端に を書いて、次の手順で計算する。
最下段の ,, が商 の係数、右端の が余りである。欠けている次数の係数は として並べる。
第7章の筆算をよく見ると、毎回「商の項を決める → 割る式にかけて引く」をくり返しています。割る式が のときは、この計算が「 をかけて足す」だけに縮まります。引き算の代わりに足し算になるのは、 の を引くことが を足すことと同じだからです。
バケツリレーでは、前の人から受け取ったバケツを、次の人へ手渡していきます。組立除法も、左から受け取った数に をかけて右へ渡し、そこの係数と足して下ろす、というリレーのくり返しです。最後にたどり着いた数が余りで、剰余の定理の と必ず一致します。
で割る割り算は、係数を並べて「下ろす → をかける → 足す」をくり返す組立除法で、商と余りを一度に求められるということです。
を で割った商と余りを求めなさい。
【解答】
係数 ,,, を並べ、左端に を書きます。
を下ろし、 を に足して 、 を に足して 、 を に足して です。
よって です。
(確かめ)剰余の定理より、余りは で一致します。
3次以上の方程式を高次方程式といいます。高次方程式は、左辺を1次式と2次式の積に因数分解して解きます。
の左辺を因数分解し、
を使って、1次方程式・2次方程式に分けて解く。因数分解には次の方法を使う。
解は複素数の範囲で考える。
ならば , の少なくとも一方が です。これは実数だけでなく複素数でも成り立ちます( なら、第11章の厳密定義で示したように をかけて になるからです)。そのため、2次式の因数からは第11章の解の公式で虚数解も求められます。
引っ越しで大きな本棚を運ぶとき、そのままでは玄関を通らなくても、棚板と側板にばらせば1枚ずつ運び出せます。3次・4次の方程式も、そのままでは解けませんが、1次式と2次式にばらせば、それぞれは知っている方法で解けるのです。
高次方程式は、左辺を1次式と2次式の積に因数分解し、「積が ならどれかが 」を使って、知っている方程式に分けて解けばよいということです。
次の方程式の解を求めなさい。
(1)
(2)
(3)
【解答】
(1) の左辺を、第2章の公式 で因数分解します。
または です。後者は なので
(2) とおくと です。
より 、 より です。よって です。
(3) とおくと、 なので が因数です。組立除法で割ると
より です。 は なので
3次方程式は、例題5のようにいつも3つの解をもちます((1)(3) は実数解1つと虚数解2つ)。4次方程式なら4つです。この「 次方程式の解は 個」という事実は、厳密定義ページで確かめます。
3乗すると になる数を、1の3乗根といいます。
方程式 の解は
である。虚数解の一方を (オメガ)とすると、もう一方は で、次が成り立つ。
なので、虚数解は の解です。 はこの方程式の解なので 、また の解なので です。もう一方の虚数解が であることは、 から も の解で、しかも でも でもないことから分かります(例題6(1))。第11章の j17 で、 の解として同じ に出会っていました。
ワルツは「1・2・3、1・2・3」と3拍でひと回りする踊りです。何拍目かが知りたければ、拍の数を3で割った余りを見れば分かります。 の累乗も、,, の3拍でひと回りするので、 のような大きな累乗は、指数を3で割った余りだけで決まります。
の虚数解 は と を満たし、この2つの式を使えば の式の値が計算できるということです。
の虚数解の1つを とする。
(1) もう1つの虚数解が であることを示しなさい。
(2) の値を求めなさい。
(3) の値を求めなさい。
【解答】
(1) なので、 も の解です。 とすると となり、 から となって、 が虚数であることに反します。また とすると、 で割って となり、これも反します。よって は とも とも異なる解で、もう1つの虚数解です。(証明終)
(2) 展開して , を使います。
(3) より , です。
(1) から、 の共役な複素数 は に等しいことも分かります。 は実数係数なので、虚数解は互いに共役だからです(第11章 厳密定義 定理4)。
最後に、解から係数を決める問題を扱います。
虚数解 係数がすべて実数の方程式が虚数解 をもつならば、それと共役な も解である。
3次方程式の解と係数の関係 3次方程式 の3つの解を ,, とすると
が成り立つ(重解はその個数だけ重ねて数える)。
虚数解が共役とペアで現れることは、第11章の厳密定義 定理4 で、何次の方程式でも成り立つと示しました。そこで、 が解と分かれば、 を解とする2次式 が左辺の因数になります。
解と係数の関係は、 の右辺を展開して、係数を比べると得られます。
2次方程式の , に、「2つずつの積の和」が加わった形です。符号が ,, と交互になることに注意しましょう。
道に手袋が片方だけ落ちていたら、もう片方もどこかにあるはずだと考えます。手袋は左右そろって1組だからです。実数係数の方程式の虚数解も、 が見つかれば、その「左右の相方」の も必ず解になっています。
実数係数の方程式では虚数解が共役とペアで現れ、3次方程式の3つの解の和・2つずつの積の和・積は係数から読みとれるということです。
(1) 3次方程式 が を解にもつとき、実数 , の値と他の解を求めなさい。
(2) 3次方程式 の3つの解を ,, とするとき、 の値を求めなさい。
【解答】
(1) 係数が実数なので、 と共役な も解です。残りの解を とします。 を解とする2次式は、和 、積 から なので
右辺を展開すると です。定数項を比べて より です。すると
よって です。
(確かめ), なので、 に代入すると です。
(2) 解と係数の関係より
です。第1章の の展開を使うと
2乗の和が負なので、3つの解のうち少なくとも1つは虚数だと分かります。
まずは公式をそのまま使う、ごく簡単な問題で確認しましょう。
問1
を で割った余りを求めなさい。
( を代入して )
問2
を で割った余りを求めなさい。
( を代入して )
問3
を因数分解した式を求めなさい。
( で になるので でくくると商は )
問4
方程式 の解を求めなさい。
()
問5
を で割った商と余りを、組立除法で求めなさい。
商 、余り (係数 から )
難易度マークは ★=基礎、★★=標準、★★★=入試レベルです。★から順に取り組みましょう。
問1 ★
を (1) (2) で割った余りを、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
剰余の定理を使います。
(1) 余りは です。
(2) となるのは なので、余りは です。
問2 ★
を で割った余りが となるように、定数 の値を定めなさい。
とおくと、剰余の定理より余りは です。
これが に等しいので より です。
問3 ★
(1) (2)
上の (1)(2) を因数分解した式を、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) とおきます。候補は の約数 ,,, です。
なので が因数です。組立除法(左端は )で割ると商は です。
(2) とおきます。候補は です。
なので が因数です。組立除法で割ります。
商は です。よって
問4 ★
を で割った商と余りを求めなさい。
商 、余り
なので、左端に を書きます。 の項がないので、係数 を補って ,,,, と並べます。
よって です。
(確かめ) で、余りと一致します。欠けた次数の を忘れると、商がずれてしまいます。
問5 ★
(1) (2)
上の (1)(2) の方程式の解を、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) の左辺を因数分解します(第11章 j16 と同じ式です)。
より 、 より です。よって です。
(2) なので、 の公式で因数分解します。
は、 として
よって です。
問6 ★
(1) (2)
上の (1)(2) の方程式の解を、それぞれ求めなさい。
(1) (2)
(1) とおくと です。
より 、 より です。よって です。
(2) とおくと なので、 または です。
よって です。
同じかたまり が2回出てくるので、第1章・第2章と同じように置き換えると見通しがよくなります。
問7 ★
方程式 の解を求めなさい。
とおくと
なので が因数です。組立除法で割ります。
です。 は です。
よって です。
問8 ★
の虚数解の1つを とするとき、 の値と の値をそれぞれ求めなさい。
,
, を使います。
, なので
また、展開すると
大きな累乗は、 を使って指数を3で割った余りに直します。
問9 ★★
整式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが である。 を で割った余りを求めなさい。
です。剰余の定理より , です。
商を 、余りを とおくと
, を代入して
辺々引くと より 、 です。よって余りは です。
割る式が因数分解されていないときは、まず因数分解して「 になる値」を見つけます。
問10 ★★
を で割った余りを求めなさい。
とおきます。 で割った商を 、余りを とすると
を代入すると より 。
を代入すると より (,)。
辺々足して より 、 です。よって余りは です。
20 次の式を実際に割るのは大変ですが、余りだけなら2つの値の代入で済みます。
問11 ★★
が でも でも割り切れるように、定数 , の値を定めなさい。また、そのときの式を因数分解した式を求めなさい。
;
とおくと、因数定理より , です。
辺々足して より 、 です。よって です。
このとき は で割り切れます。 の係数と定数項を比べると、残りの因数は です()。
(確かめ) です。
問12 ★★
方程式 の解を求めなさい。
とおきます。
なので、 と がどちらも因数です。組立除法を2回続けます(1回目は 、2回目は )。
よって
です。 の解は です。
問13 ★★
3次方程式 が を解にもつとき、実数 , の値と他の解を求めなさい。
;他の解は
係数が実数なので、共役な も解です。 を解とする2次式は、和 、積 から です。残りの解を とすると
定数項を比べて より です。すると
よって です。
(別解) を代入します。, なので
, は実数なので , より , です。
問14 ★★
3次方程式 の3つの解を ,, とするとき、 と の値をそれぞれ求めなさい。
,
解と係数の関係より
です。
を展開すると
(別解) に を代入すると、左辺は 、右辺は なので、同じ答え が出ます。
問15 ★★
を で割った商と余りを求めなさい。
商 、余り
まず で割る組立除法をします。
これは
という意味です。 なので、 を商の側へ移すと
よって です。
で割った商 をそのまま答えにすると誤りです。余りは同じですが、商は で割る必要があります。(確かめ)剰余の定理より余りは です。
問16 ★★
3次方程式 の3つの解が ,, であるとき、実数 ,, の値を求めなさい。
,, とします。, です。解と係数の関係より
よって です。
(確かめ) です。
問17 ★★★
整式 を で割ると余りが 、 で割ると余りが である。 を で割った余りを求めなさい。
3次式で割った余りは2次以下です。さらに、 で割った余りを で割ると、その余りは を で割った余り と同じになります。そこで、余りを
とおけます。つまり、商を として
右辺は と書けるので、 で割った余りがたしかに になっています。
を代入すると、剰余の定理より なので
よって余りは
余りを と3文字でおくと、 の代入だけでは条件が足りません(重なった因数 からは1つの値しか得られない)。 で割った余りを丸ごと使うのがコツです。
問18 ★★★
方程式 の解を求めなさい。
係数が ,,,, と左右対称に並んでいます。 は解ではないので、両辺を で割ります。
とおくと、第8章の公式7より なので
よって です。
係数が左右対称な方程式を相反方程式といいます。 を に変えても同じ形になるので、 でまとめられます。
問19 ★★★
3次方程式 が重解をもつような定数 の値を、すべて求めなさい。
とおくと、 なので が因数です。組立除法で割ると
より です。重解をもつのは、次の (i)(ii) のどちらかの場合です。
(i) が重解をもつ場合。判別式 より です。
どちらも重解は と異なるので適します。
(ii) が を解にもつ場合。 より です。このとき
なので、方程式の解は で、 が重解になります。
よって です。
(ii) の「2次式の因数から出る解が、1次式の因数から出る解と重なる」場合を落としやすいので注意しましょう。
問20 ★★★
を で割った余りを求めなさい。
商を 、余りを (, は実数)とおくと
の解の1つを とすると、, です(公式6)。 を代入すると
より なので
は虚数で、, は実数です。 とすると が実数になって矛盾するので、、そして です。
よって余りは です。
(別の見方) なので、 は で割り切れます。 も で割り切れるので、 から、余りは と分かります。
2次方程式には解の公式があります。第11章の小話で見たように、3次方程式の公式は16世紀に見つかり、4次方程式の公式もまもなくカルダーノの弟子フェラーリが見つけました。どれも、係数に四則と累乗根( や )を組み合わせて解を表すものです。
当然、「次は5次方程式の公式だ」と誰もが考えました。ところが、それから250年以上、どれほど優れた数学者が挑んでも見つかりません。
19世紀のはじめ、ノルウェーの若い数学者アーベルが、この問題に決着をつけます。1824年、アーベルは「一般の5次方程式の解を、係数の四則と累乗根だけで表す公式は存在しない」ことを証明しました(先にイタリアのルフィニも同じ主張をしていましたが、証明には不備がありました)。お金がなかったアーベルは、この論文を自費で、ページ数を切りつめて印刷したといわれます。アーベルは貧しさの中で病気になり、1829年に26歳で亡くなりました。
その少し後、フランスのガロアは、方程式の解の「入れかえ方」に注目して、どんな方程式なら累乗根で解けるのかを見分ける理論をつくりました。ガロアは1832年、20歳で決闘に倒れます。決闘の前夜、友人にあてて自分の研究をまとめた手紙を書き残しました(一晩で理論のすべてを書いたという話は、脚色が入っているとされます。※諸説あり)。
「公式がない」といっても、5次方程式に解がないわけではありません。第11章の代数学の基本定理のとおり、解は必ずあります。ただ、それを四則と累乗根だけで書き表す万能の式がないのです。だからこそ、この章の因数定理のように、方程式ごとの形を見て因数を探す方法が大切になります。
豆知識
のように特別な形の5次方程式なら、累乗根で解けます。 は と の積に因数分解でき、4次の因数は j18 と同じ相反方程式の方法で2次方程式に直せるからです。
この章の組立除法は、イギリスのホーナーが1819年に発表した方法にちなんで「ホーナー法」とも呼ばれます。ただし、同じ考え方はそれよりずっと前から使われていました。
13世紀の中国、南宋の秦九韶(しんきゅうしょう)は、1247年の『数書九章』で、高次方程式の解を1けたずつ求めていく計算法を示しました。その計算の中心にあるのが、「前の結果に数をかけて、次の係数を足す」という、組立除法と同じくり返しです。算木(さんぎ)という細い棒を盤の上に並べて、係数を1段ずつ書きかえながら計算したといわれます。
この計算法は、今でもコンピュータの中で毎日使われています。たとえば の での値を、そのまま計算すると、 や を作るためにかけ算がたくさん必要です。ところが
と書き直せば、かけ算は3回、足し算も3回で済みます。これは例題4の組立除法の計算そのものです。 次式なら、かけ算は 回で済みます。関数電卓やパソコンが などの値を近似の多項式で計算するときにも、この形が使われています。
豆知識
組立除法の最下段の最後の数は、余りであると同時に、剰余の定理によって の値でもあります。「割り算の筆算」と「代入して値を計算すること」が、実は同じ計算だったというわけです。
スマートフォンのカメラをQRコードに向けると、少しくらい汚れていたり、一部が破れていたりしても、ちゃんと読みとれます。QRコードは1994年に日本の自動車部品メーカー、デンソーの開発部門(現在のデンソーウェーブ)が考案しました。汚れに強いのは、中に「誤り訂正」のためのデータが入っているからです。
使われているのは、1960年にリードとソロモンが発表したリード・ソロモン符号です。考え方をおおまかにいうと、送りたいデータを整式の係数とみなし、それを別の整式で割った余りを使って、点検用のデータをつくり、元のデータに付け加えます。第7章の小話の CRC とよく似た発想ですが、リード・ソロモン符号は「誤りがある」と気づくだけでなく、「どこがどう間違っているか」まで計算で割り出して直せます。
QRコードでは、誤り訂正の強さを4段階から選べます。いちばん強いレベルでは、コードの約30%が読めなくなっても復元できます。QRコードの真ん中にロゴやイラストを載せたデザインを見かけることがありますが、あれは誤り訂正の力を当てにして、わざと一部をつぶしているのです。
豆知識
リード・ソロモン符号は、音楽CDやDVD、地上デジタル放送、さらには遠くの宇宙を飛ぶ探査機との通信にも使われてきました。CDの表面に少し傷がついても音が飛ばないのは、この符号のおかげです。
※ここは発展ページです。本文では、剰余の定理・因数定理を使って高次方程式を解き、「解の候補は定数項の約数」「3次方程式の解は3つ」といった事実を、理由を軽く説明するだけで使いました。ここでは、それらをきちんと証明します。最後に、数と式の分野の締めくくりとして、「係数が実数の奇数次方程式は、必ず実数解をもつ」ことを示します。
このページでは、整式の係数は実数、または複素数とします。第7章の厳密定義 定理3(商と余りがただ1組)は、証明の中で でない数で割ることしか使っていないので、係数が複素数でもそのまま成り立ちます(第11章の厳密定義 定理1 より、 でない複素数でも割り算ができます)。
整式 を で割った余りは である。
証明 第7章の厳密定義 定理3 より、
を満たす整式 , がただ1組ある。 は か、次数が の次数 より小さい整式なので、定数である。この等式は整式として等しいので、 を代入しても成り立ち、 となる。(証明終)
で割る場合も同じで、 を代入すると余りが出ます。
整式 について、 であることと、 となる整式 があることは同値である。
証明 ()定理1 より、 を で割った余りは なので、 である。
() に を代入すると、 である。(証明終)
第9章の厳密定義 定理1 では、同じ()の向きを、 の因数分解を使って除法なしで示しました。2つの証明は道すじが違いますが、結論は同じです。
本文の公式3では、「 から候補を選ぶ」と述べました。その根拠が次の定理です。
係数がすべて整数の 次方程式
が有理数の解 (, は互いに素な整数、)をもつならば、 は の約数、 は の約数である。
証明 を代入し、両辺に をかけると
となる。 以外の項はすべて を因数にもつので
右辺のかっこの中は整数なので、 は の倍数である。 と は互いに素なので、 は と共通の素因数をもたず、 は の約数である。
同じように、 以外の項はすべて を因数にもつので、 は の倍数であり、 は の約数である。(証明終)
証明の途中で、「 と が互いに素で、 が を割り切るならば、 は を割り切る」ことを使いました。これは素因数分解がただ1通りであることからしたがう性質で、整数の性質の分野で詳しく学びます。
のときは、 でくくり出して次数を下げてから考えます。最高次の係数が なら となり、有理数の解は整数に限られ、しかも定数項の約数です。
この定理を使うと、第2章の厳密定義で残した問いに答えられます。第2章の定理2 では、「3次式が有理数の範囲で因数分解できる 1次の因数をもつ」ことを示しました。1次の因数 があることは、定理2 により となる有理数 があることと同じです。たとえば の場合、有理数の解の候補は , だけですが、,,, はどれも ではありません。よって は有理数の解をもたず、 は有理数の範囲では因数分解できない(既約である)ことが分かります。
第11章の厳密定義 定理5(代数学の基本定理)と因数定理を組み合わせると、次のことが分かります。
次式 (,)は、複素数 ,,, を用いて
と表せる。 の解は ,, であり、それ以外にない。
証明 代数学の基本定理より、 は複素数の解 をもつ。定理2 より で、両辺の最高次の項を比べると は最高次の係数が の 次式である。
ならば、 に同じことを行って とする。これを 回くり返すと、最後の は 次式、つまり定数 となり、上の形が得られる。
がどの とも異なれば、 は でない複素数の積なので でない( でない複素数には逆数があるので、積が なら因数のどれかが である)。よって、解は ,, に限る。(証明終)
,, の中には同じ値が重なって現れることがあります。 がちょうど2回現れるとき を2重解、3回なら3重解といいます(本文の「重解」は2重解のことです)。この数え方をすれば、 次方程式は、複素数の範囲でちょうど 個の解をもつといえます。第9章の厳密定義 定理2(実数の解は多くても 個)は、この事実の一部だったのです。
3次方程式 の解を、重解は重ねて数えて ,, とすると
が成り立つ。
証明 定理4 より であり、これは整式として等しい。右辺を展開すると
となる。同じ次数の係数を比べて、,, を得る。 で割れば結論が得られる。(証明終)
同じ方法で、 次方程式でも「解の和」「2つずつの積の和」「3つずつの積の和」……「すべての積」が、符号を交互に変えた係数の比 ,,, で表されます。
最後に、第11章の厳密定義 定理4(実数係数なら も解)と、ここまでの定理を組み合わせます。
係数がすべて実数の奇数次の方程式 は、少なくとも1つの実数解をもつ。
証明 次数 についての背理法で示す。実数解をもたない奇数次の実数係数の方程式があったとし、その中で次数がいちばん小さいものを (次数 )とする。1次方程式 は実数解 をもつので、 である。
代数学の基本定理より は解 をもち、仮定より は虚数である。第11章の厳密定義 定理4 より も解で、 である。(, は実数、)とすると
は実数係数の2次式である。これを とおく。
を で割ると、係数が実数の範囲で商 と余り (1次以下)が決まる。 に , を代入すると となる。1次以下の式が異なる2つの値で になるのは、 が のときだけなので、 である。
は実数係数の 次式で、 も奇数である。 の解は の解でもあるので、 も実数解をもたない。これは が最小であることに反する。(証明終)
たとえば、例題5(1) の や (3) の は、虚数解2つと実数解1つをもっていました。3次方程式の虚数解は共役とペアでしか現れないので、3つの解のうち少なくとも1つは、ペアの相手がいない実数解になるのです。偶数次ではこうはいかず、 や は実数解をもちません。
この定理には、微分積分の分野で学ぶ「中間値の定理」を使った、まったく別の証明もあります。 を大きな正の数にすると の値は最高次の項と同じ符号になり、大きな負の数にすると逆の符号になるので、グラフはどこかで 軸を横切る、という見方です。代数(複素数の共役)と解析(グラフのつながり)という2つの道が、同じ結論にたどり着きます。
これで、数と式の分野は終わりです。整式の計算から始めて、因数分解・恒等式・複素数を経て、「 次方程式にはちょうど 個の解がある」という大きな結論にたどり着きました。
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